研究課題
本研究は、火星の二酸化炭素(CO2)の流出機構の中でも特に不確定性が大きい「電離圏CO2+の流出機構」を解明することを目的とする。特に、太陽風からの運動量輸送などの上側からの領域間結合と、大気重力波に起因する乱流拡散や大規模風速場の変化などの下側からの領域間結合の影響が、電離圏CO2+の流出に果たす役割を明らかにすることを目指している。計画2年目である平成28年度には、下層大気起源の大気重力波が超高層大気に及ぼす影響を明らかにするために、MAVEN衛星搭載のNGIMSやIUVSの観測データの統計解析を実施し、火星熱圏における大気重力波の振幅・スペクトル特性とそれらの緯度分布・経度分布・季節変動の観測結果、並びに大気重力波を含めた大気大循環モデルの計算結果との比較を纏めて学術論文として公表した。MAVEN観測では大気重力波活動度の分布に明確な昼夜非対称が見られ、上部熱圏と下部熱圏では特性が大きく異なっていたため、火星熱圏・外圏DSMCコードを用いて大気重力波の伝搬・散逸過程を調査し、観測の鉛直分布を説明するためには少なくとも200km以上の鉛直波長をもつ重力波の成分が必要であることを示した。太陽風から電離圏への運動量輸送については、大きな密度勾配が存在するプラズマ境界層におけるK-H不安定性の局所シミュレーションとMAVEN衛星による火星電離圏界面のプラズマ総合観測との比較に基づき、エントロピーを基準とした新たな混合層モデルを提唱した。火星電磁圏のグローバル多成分磁気流体力学コードへの粘性効果の組み込みにおいてはBohm型異常粘性項とプラズマ分子粘性項の形でコードに粘性効果を組み込み、それぞれの粘性項を変化させた計算を複数回実行して電離圏流速への運動量輸送の影響を評価した。
2: おおむね順調に進展している
計画2年目の平成28年度には、下層大気起源の大気重力波の影響については、MAVEN衛星の観測データを統計解析して大気重力波の振幅とスペクトル特性の緯度分布・経度分布・季節変動などを調査し、大気大循環モデルと比較する計画であったが、計画通りに観測データの統計解析とモデルとの比較を実施して、複数の学術論文として公表した。太陽風から電離圏への運動量輸送については、MAVEN衛星の観測データとK-H不安定性の局所シミュレーションの計算結果との比較を予定通りに実施し、多成分磁気流体力学コードに粘性効果を組み込んだ計算も予定通りに実施した。従って、計画は概ね予定通り達成されている。
今後は、MAVEN衛星のNGIMSとIUVSデータの統計解析を更に進めるとともに、火星大気大循環モデルと熱圏・外圏DSMCモデルの数値計算を幅広いパラメータ範囲で実行することで、火星熱圏における大気重力波の振幅とスペクトル特性の高度分布・緯度分布・経度分布・季節変動を説明する物理機構の検討と、大気重力波が熱圏CO2や電離圏CO2+の密度分布に及ぼす影響の定量評価を行う。太陽風から電離圏への運動量輸送については、火星電離圏界面におけるK-H不安定性の局所シミュレーションとMAVEN衛星の観測データとの比較に基づいた輸送・混合効率をもとに、粘性効果を組み込んだ多成分磁気流体力学シミュレーションを様々な太陽風パラメータで実行し、太陽風からの運動量輸送が電離圏CO2+の流速に及ぼす影響を定量的に評価する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 9件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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