研究課題/領域番号 |
15H03736
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田上 高広 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80202159)
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研究分担者 |
堤 昭人 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90324607)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 東北日本弧 / 熱年代学 / 長期歪速度 / (U,Th)/He年代 / アパタイト / 上昇-侵食-冷却史 |
研究実績の概要 |
東北日本弧の長期変形過程を明らかにするために、低温領域の熱年代学を複合的に用いて長期歪速度の時空分布を高精度決定することを目指した。具体的には、アパタイトの (U,Th)/He年代測定を行い、母岩の隆起-侵食-冷却過程を定量的に復元することを進めた。 まず、東北脊梁山脈を横切る3つの測線の1番目として、福島-新潟測線において現地フィールド調査を行い、岩石試料を系統的に約20試料採取した。白亜紀の花崗岩類を中心に、第四紀火山などの2次的熱源を避け、ほぼ等間隔になるように試料を採取することができた。次に、採取した岩石試料を用いて鉱物分離を行い、十分量のアパタイトとジルコンを精選分離することができた。そこで、アパタイトの(U-Th)/He年代測定を優先的に進めた。具体的には、形状・透明度・粒径の良好な結晶をハンドピックし、実体顕微鏡下で粒径等を測定・記載した後、所定の白金パケットに封入した。レーザー照射により、結晶からヘリウムを抽出し、希ガス専用質量分析計を用いて同位体分析した。脱ガスの済んだ結晶は化学的に溶解し、ICP質量分析装置によりウランとトリウムを定量し、年代値を算出した。 アパタイトの(U-Th)/He年代は、地質スケールの熱年代系としては最も熱感度が高く、~70℃という低い閉鎖温度を持つ。年代測定の結果、以下の事実が明らかになった:(1)上記測線の東側部分にあたる太平洋側地域では、年代値は比較的古くおよそ50a程度を示す。(2)上記測線の西側部分にあたる日本海側地域では、年代値は比較的若くおよそ10a程度を示す。(3)上記測線の中央部分にあたる奥羽脊梁地域では、年代値は最も若くおよそ1-2a程度を示す。 これらの結果は、上記3つの地域において、上昇-侵食-冷却史が大きく異なることを示唆するが、今後、他の熱年代系などとの比較を通じて解釈を確実なものにする必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通り、地質調査と試料採取が行えた。また、アパタイトの(U-Th)/He年代などの分析も順調に進み、当初予想していた以上の興味深い成果が得られたため。特に奥羽脊梁地域では、非常に若い年代値が得られており、今後の詳細な上昇-侵食-冷却史の復元が大変期待されることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
27年度が大変順調に進んだので、岩手~秋田の北測線を同じような手順で調査し解析する予定である。そして、北測線と南測線間の詳細な比較検討を進める予定である。あわせて、アパタイトの(U-Th)/He年代以外の熱年代分析も進め、詳細な上昇-侵食-冷却史の復元を行う。具体的には下記を予定している。
(1)現地フィールド調査と試料採取 白亜紀の花崗岩類を中心に、第四紀火山などの2次的熱源を避け、ほぼ等間隔になるように試料を採取する予定である。(2)鉱物分離 岩石試料からアパタイトとジルコンを精選分離する。(3)FT分析とU-Pb年代測定 高解像度の透過型光学顕微鏡下で観察し、トラック密度を測定する。次に、レーザー照射四重極型ICP質量分析装置を用いて該当エリアのウラン濃度を定量し、年代値を算出する。ジルコンについては、U-Pb年代も同時に測定する。(4)(U-Th)/He年代測定 形状・透明度・粒径の良好な結晶をハンドピックし、実体顕微鏡下で粒径等を測定・記載した後、所定の白金パケットに封入する。レーザー照射により、結晶からヘリウムを抽出し、希ガス専用質量分析計を用いて同位体分析する。脱ガスの済んだ結晶は化学的に溶解し、ICP質量分析装置によりウランとトリウムを定量し、年代値を算出する。(5)熱史のインバージョン解析・熱年代プロファイルの作成 FT分析済み試料について、トラック長分布とFT年代を用いたインバージョンを行い、試料ごとに詳細な熱史を復元し比較する。これにより、各試料の冷却イベント開始の時期と温度(深度)を推定する。得られた4種類の熱年代(アパタイトHe~70℃; アパタイトFT~100℃; ジルコンHe~180℃; ジルコンFT~300℃; 図2参照)を測線上にプロットし、広域的な熱年代プロファイルを作成する。
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