2011年東北地方太平洋沖地震では、海溝付近のプレート境界が大規模に滑ったことにより、巨大津波が発生し、沿岸地域に甚大な被害を与えた。これまでプレート境界断層浅部は地震性すべりを起こさない領域とされてきたため、この原因を探るべく地球深部探査船による第343次研究航海(東北地方太平洋沖地震調査掘削:JFAST)が2012年に実施された。一方で、南海トラフにおける海溝型巨大地震は約100~150年程度の間隔で繰り返し発生し、そのたびに沿岸域は津波の被害をうけている。地震・津波発生過程を明らかにすべく、2007年より南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)が開始され、第314-316次研究航海では、南海トラフのプレート境界断層と巨大分岐断層の断層試料の回収に成功した。 平成29年度の研究では,前年度に実施した断層掘削試料の鉱物組成と各種物理特性(摩擦係数、透水率、熱重量変化など)のデータを元に,thermal pressurizationを組み込んだ断層滑りの数値解析と,その解析結果から得られた剪断応力ー滑り距離の構成則を用いた動力学解析を実施した. その結果,日本海溝のプレート境界断層では,thermal pressurizationが大きく作用し,断層が弱化,海溝付近にて,約80 mの巨大滑りを再現することができた.一方で,南海トラフでは,相対的に高い摩擦係数のためthermal pressurizationは機能しやすいが,原位置での高間隙水圧のため,その機能が抑制され,海溝付近のすべり量は約30-50 m程度になることがわかった. 以上の結果より,断層試料の分析結果から、地震時に断層がどの程度滑るのかを定量的に予測することが可能となり,今後の断層深部掘削研究に大きな貢献となったと言える.
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