研究課題
本研究の目的は、沈み込みプレート境界における応力の方位および大きさの地震サイクルに伴う変化を半定量的に明らかにすることである。このとき、応力変化に対応して分類された小断層の岩石物性と変形破壊組織を天然の岩石から取得する。半定量化された応力の大きさの変化と岩石物性および変形破壊組織を合わせることで地震前後の応力サイズおよび弾性歪エネルギー変化と岩石破壊組織との関係の解明に迫る。研究対象地域は陸上付加体である高知県白亜系四万十帯、沖縄県四万十帯、および台湾チェルンプー断層である。これらは,沈み込みプレート境界の浅部,深部および内部に相当することが分かっており,付加ウェッジ前縁部の情報を網羅する。本研究方法は以下の4つに分けられる。1)野外調査によるスリップデータの取得と、小断層位置の特定、2)応力解析(方位・応力比・応力サイズ)、3)物性測定、4)破壊組織観察と定量である。これらをお互いにフィードバックしながら、より理解を深めて行く。地域によって進行具合が異なっており、不足しているところの補強を行いつつ、進みの早いところではデータのより詳細な解釈とモデルの構築を行っている。2016年度は、主に台湾チェルンプー断層コア小断層のラフネス解析結果のより詳細な解釈、四国白亜系四万十体横浪メランジュ地震断層近傍の地質調査、および巨大地震に伴う応力変化についてのモデルの再構築を行った。また、沖縄四万十体における古応力解析の結果については論文執筆・投稿を行い、中修正のディシジョンに対応した上で、現在リバイス原稿の審査中である。
2: おおむね順調に進展している
2016年度は、主に以下の3つのことを行った。1)台湾チェルンプー断層掘削コアから得られた小断層のラフネス解析の結果を検討:小断層ラフネス解析の結果、ハースト指数が0.7程度であった。弾性破壊に伴う剪断変形モデルに基づけば、この結果は応力降下量が地震規模によらず一定という従来の通常地震の常識と一致しないことを示しており、変位量が破壊領域に比例しないスロー地震的なすべりを考慮する必要があることが示唆された。2)四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁断層の地質調査:ラフネス解析の事例を増やすために、四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁断層近傍に発達する小断層の地質調査を行った。応力解析後、地震前後のものを区別した上で小断層をサンプリングし、ラフネス解析を行う予定である。3)地震サイクルに伴うと考えられる古応力の変化についてのモデルの検討:巨大地震前後における応力の変化は、地震断層面の剪断応力の変化が原因であるとするモデルを立てていたが、地形変化の影響も無視できないとの指摘を国際学会の場で得た。地形変化の影響を考慮したモデルの検討を始めた。古応力と変形組織の対応については台湾の事例が先行しており、モデルの構築の進化に努めつつ、他の事例を増やすべく横浪メランジュの調査を進めた。また、沖縄の事例については古応力変化の同定についての論文がリビジョン中である。
ラフネス解析結果の解釈について、得られたハースト指数から応力降下量と地震規模の関係が一定ではないことを示唆することが新たにわかり、この考え方に基づいて通常地震と異なるすべりを想定することが可能になりそうである。このようなハースト指数が1以下であることが一般的であるかを検討するために、他の地域についてもラフネス解析を行い、事例を増やす必要がある。そのためには古応力の変化に対応する小断層の同定が必要であるが、地域によって進行具合が異なっている。まずは、すでに古応力の変化が明らかであり、小断層の同定も容易である沖縄の事例を進めていきたい。また、四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁断層の事例も進行中であり、具体的に古応力の変化に対応した小断層の同定を行っていく。一方、エネルギー計算を行う上で重要な物性測定については、物性測定用のサンプリングが済んでいる台湾コア試料を用いた室内実験を行いつつ、沖縄および四国白亜系四万十帯横浪メランジュについても、サンプリングを行う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 10件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
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