研究課題/領域番号 |
15H03739
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
横川 美和 大阪工業大学, 情報科学部, 教授 (30240188)
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研究分担者 |
泉 典洋 北海道大学, その他の研究科, 教授 (10260530)
石原 与四郎 福岡大学, 理学部, 助教 (80368985)
成瀬 元 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40362438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 地質学 / 混濁流 / サージ流 / サイクリックステップ / タービダイト |
研究実績の概要 |
地層の厚さ分布・堆積構造・粒子配列などをアナログ実験や理論解析の結果と対応付けて過去の水理条件を推定している.ベッドフォームの形成条件に関するアナログ実験はこれまでにも数多く行われているが,いずれも継続的な流れと平衡状態になったベッドフォームを対象にしてきた.しかし現実には,継続時間の短いサージ的な混濁流が何度も来ることによってサイクリックステップが形成される場合もあることがわかってきた.本研究ではサージ的な混濁流によるサイクリックステップ形成に関するアナログ実験・数学モデルの構築を行い,その形成条件・形態的特徴を明らかにすることを目的とする.またこれらの結果を用いて現地観測データの解釈を行うほか,地層のタービダイト中のサイクリックステップ認定の為の特徴抽出を行い,サイクリックステップ(and/orアンティデューン)形成を含むタービダイト形成モデルの構築を目指す. 平成27年度の研究計画は次の3項目であった.(1)大阪工業大学情報科学部に新規水路を設置しサージ的混濁流によるサイクリックステップの形成実験を行う.(2)混濁流によるサイクリックステップ形成について従来の連続流用の数学モデルをサージ流に適応可能かどうかを検討.(3)宮崎県青島周辺に分布する宮崎層群のタービダイトの中でサイクリックステップまたはアンティデューンによって形成されたと考えられる層準についての詳細な調査.また,それらへのアナログ実験・理論解析結果の適用について議論. 結果として,(1)新規水路の実験から,サージ的混濁流によってはサイクリックステップが形成されるが,同じ流量・給砂量の連続流では形成されない事,(2)サージ流の効果が大きいため,従来の連続流の数学モデルは適用できない事,(3)地層のタービダイト中のサイクリックステップと考えられる層準では,上流側斜面と下流側で堆積構造が異なる事,がわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況を以下に示す(番号は「研究実績の概要」と対応).(1)(a)新規水路の設置に先立ち,既設の小型循環水路(長さ4m,幅0.08m,深さ0.4m)や同志社大学理工学部の混濁流発生用水路(長さ3.6m,幅0.08m,深さ0.6m)を用いて予備実験を行った.いずれも内部に幅2cmのアクリルまたは塩ビ製の小水路(長さ:3.6m,3.0m)を吊るし(傾斜:1.5°,7°),塩水とプラスチック粒子を混ぜたものを1回の試行で450mL,約70回ずつ流した.傾斜1.5°ではステップが1つ形成され上流へ移動したが,水路の制限から複数のステップは形成されなかった.傾斜7°では2つのステップが上流へ進行した.(b)予備実験結果と設置場所条件との兼ね合いから,長さ7.6m,幅0.3m,深さ1.2mの「深型堆積用水路」を新規に大阪工業大学情報科学部に設置した.(c)水路に幅2cm,長さ7.0mのアクリル製水路を傾斜7°で設置し,サージ的混濁流と連続的混濁流による実験を行った.サージ的混濁流では130回のサージによって4つのステップが上流進行し,その波形勾配が徐々にスコーミッシュデルタのサイクリックステップに近づくことが観察された.これに対し連続流ではステップ状地形が発達して上流へ進行することはなかった.(2)実験結果からサージ流の果たす役割が大きいことが判明し,従来の継続的流れ用の数学モデルは適用できないことがわかった.(3)宮崎層群のタービダイト中のサイクリックステップ(またはアンティデューン)と考えられる層準の詳細なスケッチから,上流側斜面と下流側では堆積構造が異なり,流れの加速・減速,また跳水の発生とその収束に関連付けられる可能性があることがわかった.一方,実験結果の地層への適用の為,従来のアナログ実験で得られているベッドフォーム形成条件の自動判別式を作成した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題と推進方策は以下の通りである(番号は「研究実績の概要」と対応).(1)(i)新規「深型堆積用水路」での実験は2種類しか行えなかったので,平成28年度にさらに実験を行う.サージの長さや間隔,流量や堆積物濃度などを変化させて,サイクリックステップの形成条件や形態の変化を観察する.平成27年度の側面からの写真撮影に加えて,動画撮影,レーザー変位計による堆積物厚さ測定を行う.(ii)大阪工業大学の長さ7.6mの水路では,サージ的混濁流によるステップ形成の過程を観察することはできるが,スコーミッシュデルタに見られるような斜面の上部から下部へのステップ形状の変化などは観察できない.そこで,現地への適用可能性を広げる為,米国イリノイ大学水理工学研究所の15m水路を借用して実験を行う予定である.(2)実験結果を踏まえて,サージ的混濁流を水理学的(数学的)にどのように扱えるかについて検討し,サージ的な混濁流によるサイクリックステップ形成についての数学モデルを検討する.(3)宮崎県青島周辺に分布する宮崎層群のサイクリックステップまたはアンティデューンによって形成されたセディメントウェーブであると考えられるタービダイトの層準について,詳しい調査を昨年度に引き続いて行い,地層中のサイクリックステップ(またはアンティデューン)認定の標準指標作成を目指す.これらの特徴と実験結果を比較し,の地層への適用に関して検討する.(4)これらの研究成果の発表,また海外の関連の研究者(研究協力者:John Hughes Clarke (米国・ニューハンプシャー大学)とPeter Talling (英国立海洋研究所))らとの意見交換のため,平成28年7月にカナダで行われる混濁流現地観測のワークショップ,AGU2016Fall Meeting(米国地球物理学連合秋季大会)などにそれぞれ参加する.
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