研究課題/領域番号 |
15H03745
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中川 光弘 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50217684)
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研究分担者 |
栗谷 豪 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (80397900)
吉村 俊平 北海道大学, 理学研究院, 助教 (20706436)
松本 亜希子 北海道大学, 理学研究院, 技術職員 (20528260)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 巨大噴火 / カルデラ / 珪長質マグマ / 噴火準備過程 / マグマ供給系 / マグマ混合 |
研究実績の概要 |
H28年度ではまず複数カルデラ噴火について、マグマ供給系の構造とその変遷および噴火プロセスについて検討した。その概要は以下のとおりである。1)屈斜路火山のKp4噴火では、2種の珪長質マグマの混合による成層マグマ溜りが形成され、そこに複数の異なるマフィックマグマが、順次貫入したことが明らかになった。そのマフィックマグマの貫入では、複数の独立したダイク系が形成され、それにより早期に火砕流が発生し、火道系毎に火砕流の層相が異なることになった。2)支笏カルデラ形成噴火および鬼界アカホヤ噴火においても、屈斜路と同様に、噴出した主たるマグマである珪長質マグマは均質ではなく、2種類の珪長質マグマの混合が起こっており、その混合珪長質マグマにマフィックマグマが貫入してカルデラ噴火が発生した。斑晶鉱物の累帯構造の検討では、この混合珪長質マグマの生成は噴火の数百年前以前から起こっていたと考えられる。3)阿蘇と姶良カルデラについてカルデラ噴火に先行する火山活動の物質科学的検討を行った。阿蘇の場合には直前先行噴火とカルデラ噴火のマグマ系は別で、姶良の場合は数万年間の先行噴火の間に、マグマが次第にカルデラ噴火時のマグマに類似するようになる変化が認められた。 また研究過程で、支笏火山は周辺の洞爺火山や羊蹄火山などと並行して火山活動を行ってきたことが明瞭になった。そこで火山地域全体での火山活動の特徴を捉えることが重要と考えた。この年度ではまず全体の火山活動史を明らかにした。その結果、この地域では約14万年前から洞爺で大規模噴火が始まり、特に珪長質マグマの噴出率がこの11~4万年前の間で異常に高いことが明らかになった。そしてこの地域の玄武岩に物質科学的解析を加え、ウエッジマントルの温度と含水量が東北本州深部より高いことがわかった。このことがカルデラ火山の活動が活発なことと調和的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は当初計画以上に進んでいると評価している。その理由は以下のとおりである。 1)屈斜路火山および支笏火山では研究開始時点で、噴火推移の地質学的研究は概ね終了していたので、28年度は物質科学的な分析および解析に重点をおくことができている。2)支笏火山および鬼界火山では別課題によりボーリング掘削が行われており、そのコアも物質科学的研究に用いることができた。3)阿蘇と姶良火山についての物質科学的解析を実施することにしていたが、その試料採取を熊本地震の直前に終えることができていた。そのため28年度に基本的なデータを収集することができた。4)本研究開始時に、FE-EPMAやMC-ICP-MSなどの分析装置が導入され、そのための実験室整備およびルーチン分析手順確立が前年度に終了した。そして28年度には本格的に稼働することができた。5)別課題において支笏~洞爺火山地域のテフラ調査およびK-Arおよび炭素年代測定を実施した。その結果、支笏火山の活動史がより詳細が解明できただけではなく、洞爺・支笏火山地域全体の活動が明らかになった。また有珠火山の玄武岩の研究からウエッジマントルが通常より高温で含水量も多いことがわかり、大量のマグマが生じる環境であることがわかった。この成果は研究開始時には想定されていなかったが、支笏火山単独ではなく、地域全体のマグマ生成・進化過程を解明できるきっかけになっていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、以下の火山に研究を集中して行う。それらの火山は、数万年以内と短期間の準備期間で、直前先行噴火のない事例として支笏火山、そして長期にわたり活動を続け、かつ直前先行噴火のある事例として鬼界火山と屈斜路火山である。それぞれの火山での最大のカルデラ形成噴火についてはこれまでに検討したマグマ供給系の構造とその形成・噴火過程について時間軸を意識した解析を続ける。1)支笏については準備期間65kaの噴火(社台噴火)と42kaのカルデラ形成噴火のマグマ供給系の比較を行い、時間軸を意識した大規模珪長質マグマの形成プロセスを議論する。2)屈斜路火山については約20万年から3万年前までの大規模噴火のマグマ変遷を検討し、大規模珪長質マグマの生成が継続するメカニズムを検討する。また屈斜路火山に引き続いて大規模噴火を頻発している摩周火山についてもマグマ供給系の検討を行う。3)カルデラ噴火の珪長質マグマ同士の混合による大規模珪長質マグマの形成について、特に支笏と鬼界について斑晶鉱物の累帯構造の解析を進める。またそのプロセスは一般的なプロセスであることを確認するために、やや規模の小さな噴火(ピナツボ1991年、樽前bおよび北海道駒ヶ岳d噴火)での珪長質マグマについて検討を開始する。 一方で支笏・洞爺火山地域については6~4万年にかけてクッタラおよび支笏では大規模珪長質マグマが活動するが、同時期に羊蹄火山ではREEやHFS元素に富むやや異常な組成の安山岩~デイサイト質マグマが大量に活動していた。両者の成因関係を検討することで、大規模珪長質マグマが南西北海道で後期更新世から大量に活動した原因を探る。
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