研究課題
H29年度も前年度に引き続き、カルデラ火山の巨大噴火履歴の特徴に基づいたタイプ区分を念頭におき、主としてそれぞれの代表的火山について、マグマ供給系の構造とその変遷および噴火プロセスについて検討した。さらにこれまでの成果を学会および学術誌で公表することも行った。まず直前の先行する噴火のあるタイプとして鬼界火山および屈斜路火山の検討を行った。別課題で実施したボーリングコアを検討した結果、カルデラ形成後の噴火活動で、これまで知られていない複数タイプのマグマの存在を確認した。屈斜路火山ではKp4で明らかにした噴火推移に基づきマグマ供給系の検討を行った。その中で珪長質マグマは2種のマグマの混合物であることが明らかになり、その混合プロセスは噴火前の100~300年前から起こっていたこと、そしてその混合珪長質マグマに噴火の数時間から1ヶ月前にかけてマフィックマグマが貫入して、カルデラ形成噴火に至ったことが明らかになった。先行する噴火のないタイプである支笏火山の4.6万年前のカルデラ形成噴火(VEI=7)については噴火推移とマグマ供給系の再検討を行った。その結果、従来は一連の噴火と考えられてきたカルデラ形成噴火には複数の時間間隙が存在することが明らかになった。そしてマグマ供給系の構造は屈斜路火山と類似しており、珪長質マグマは単一ではなく2種のマグマの混合物であること、その混合過程は噴火前の数百年前から起こっていたことが明らかになった。これに加え6万年前の噴火(VEI=6)についても噴火推移とマグマ供給系の検討を行った。その結果、この噴火ではカルデラ形成前のマグマプロセスの継続時間は100年以下であり、4.6万年前の噴火と比べると短時間であることがわかった。これまでの成果は20編の論文として国内外の学会で発表されるとともに、査読付き学術誌に9編が公表され、そのうち6編が国際誌であった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究は当初計画以上に進んでいると考えている。その理由は以下のとおりである。1)支笏火山ではカルデラ近傍で大規模な砂防工事が本研究課題と同時進行で進んでおり、極めて良好な大露頭が次々と出現している。そのことにより、火口近傍でのカルデラ噴火堆積物の全貌を観察することが可能となった。そして、通常の地表踏査では確認されていなかった噴火様式の時間推移の詳細が明らかになっただけではなく、噴火活動中の複数回の時間間隙も明らかにすることができた。2)別予算でH28年度に実施した鬼界火山でのボーリング掘削では、既存研究では知られていないタイプの後カルデラ火山活動の存在を明らかにすることができた。このことにより大規模噴火から後カルデラ火山活動への推移について新たな知見を得ることが出来た。3)鬼界火山ではH29年度に別予算によりボーリングを実施しており、カルデラ形成噴火の直前に噴出した長浜溶岩の活動の開始から終了までの試料を回収できた。そのことにより長浜溶岩の活動からカルデラ形成噴火にいたる過程を検討できると考えている。4)屈斜路火山では隣接する摩周火山を対象とした地熱探査のための調査やボーリング調査が国や自治体によって行われており、そのコアを検討する機会に恵まれている。それにより屈斜路火山だけではなく摩周火山についても新たな知見が認められており、研究の進展が認められる。
H30年度は、これまで検討した火山および噴火事象に関する研究成果のとりまとめに重点をおく。まず支笏火山では4.6万年前のカルデラ噴火活動の新たに認められた時間間隙に注目して、マグマ供給系の構造とそこでのマグマプロセスの時間変化について検討する。鬼界火山では本研究期間中に実施されたボーリングで明らかになった、カルデラ噴火前の長浜溶岩と噴火後の後カルデラ火山に重点をおき、それらとカルデラ噴火との関連について検討する。屈斜路火山および摩周火山については、別課題および地熱探査に伴うボーリングやトレンチ掘削のデータを収集し、今後の研究課題を明らかにする。これら上記の成果については順次、学術雑誌に論文を投稿する。H30年度は本研究課題の最終年度であるので、これまでの研究を総括する。そして、その研究成果をもとに、カルデラ火山およびカルデラ形成噴火研究の未解決の課題を明らかにし、次の研究計画に反映させる。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 8件)
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