研究課題
本研究は、断層におけるケイ酸塩鉱物の非晶質化過程を原子レベルで明らかにすること、またその知見を天然の断層試料の解析に用いることで、断層が経験した地震性すべり過程を詳細に復元することを目的としている。カオリン鉱物は断層中に普遍的に見られる粘土鉱物であり、また構造や化学組成が比較的単純であることから、本課題の重点的な研究対象としている。カオリナイト(関白産)標準試料を出発物質とし、これにボールミルによる粉砕処理を段階的に施し、非晶質カオリンを作成した。得られた試料について、XRD分析や熱重量測定を行った結果、カオリンは粉砕時間と共に非晶質化が進み、20時間の粉砕処理でほぼ非晶質化が完了すること、非晶質化とともに結晶中の構造水の脱水温度や高温相へと変化する温度がより低温側にシフトすること、などが明らかとなった。これらの試料についてX線散乱実験によるPDF解析を行った結果、熱処理によって得られる非晶質カオリンとの局所構造の違いが明らかになりつつある。このことは、断層のように複合的な作用によって非晶質化が進む場合においても、断層岩の構造解析を通して、これらの作用を個別に評価できる可能性を提示している。また、異なる鉱物が同一条件のもとでそれぞれどのように非晶質化されるかが評価できれば、複数の鉱物種からなる天然の断層の解析を行う上では大きな利点となる。昨年度後半からは、沈み込み帯の地震断層岩の解析を想定して、緑泥石を対象とした実験も開始した。
3: やや遅れている
メカニカル粉砕によって作成した非晶質カオリンのX線散乱実験を行ったところ、予察的な結果ではあるが、熱処理で作成された非晶質カオリンとの局所構造の違いを示すことができ、本課題の目的達成に向けての目途が立った。ただし、散乱強度の補正などで問題が生じており、PDF解析に関してやや遅れが生じている。昨年度後半には問題の解決策が見えてため、これらを踏まえて実験を着実に遂行する。一方、天然の断層ガウジ試料の分析では進展があり、南海トラフのような海溝型地震断層においては、緑泥石の非晶質化過程をカオリンのものと比較することで、断層すべり過程をより正確に復元できる可能性が示されたことは大きな成果である。
X線散乱実験においては、非干渉性散乱の影響を正確に見積もることが重要であり、今後は、現在のAg線源を用いた実験に加え、Mo線源を用いた実験も行い、より信頼性の高い構造解析を目指す。昨年度後半には強度補正についてある程度の目途がたったため、今年度中にはカオリンの構造解析を一通り完了させる予定である。またMEM法などを用いて、構解析結果の妥当性について検討を行う。昨年度後半から開始した緑泥石を対象とした実験については、現在試料調整を進めている段階である。非晶質処理を施した試料に関する基礎データを収集したのち、速やかにPDF解析を開始する予定である。カオリナイトおよび緑泥石に関する知見を統合し、南海トラフの断層試料の解析に適用することで、地震性すべり発生時の摩擦発熱による最高到達温度の推定を試みる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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