研究課題
本研究は、断層におけるケイ酸塩鉱物の非晶質化過程を原子レベルで明らかにすること、またその知見を天然の断層試料の解析に用いることで、断層が経験した地震性すべり過程の詳細を復元することを目的としている。本研究では、断層ガウジの主要構成鉱物であり、また比較的簡単な構造を有するカオリン鉱物(カオリナイト)を対象として実験を行っている。昨年度は、カオリナイトをメカニカルに粉砕処理した粉末を用いて通常のXRD分析や熱分析を行い、およそ20時間の粉砕処理により回折ピークがほぼ消失することを確認した。また、こうして段階的に非晶質化した物質を対象として、Ag線源を用いたX線散乱強度測定を行い、得られたパターンのRDF解析を行った。昨年度の大きな問題点として、散乱強度補正が十分に行えなかったことが挙げられ、このため信頼性のあるRDFが得られなかった。この問題を解決するため、今年度は新たにMo線源を用いた散乱実験を行い、すべての試料についてRDFの再解析を行った。その結果、熱処理と粉砕処理では、得られる非晶質物質の構造に明瞭な違いがあること、特に粉砕処理においては3.6~5.8Åの短・中距離構造の乱れが顕著であることが分かった。これらは、隣り合うカオリナイト基本層を連結させているAl-Si、Al-Al、Si-Siのリンケージに相当していると考えられ、つまり層間を構成する水素結合の選択的な破壊を示唆している。このことは、カオリナイトの脱水温度が低温側へシフトするという熱分析の結果によっても支持される。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の実験により、メカニカル処理によるカオリナイトの非晶質化過程の実態が明らかになってきた。特に、メカニカル処理に伴うカオリナイトの水素結合の大きな乱れは、断層ガウジ試料の分析を通して、断層運動によって断層物質が被るメカニカル作用の強度を見積もるための重要な指標になりうるものと期待できる。また、こうした水素結合の乱れは、カオリナイトの脱水反応をより低温で促進する作用があるため、断層の動的弱化(脱水作用とその水の熱膨張による断層強度低下)を駆動する重要な因子となっている可能性があり、断層のすべり挙動を考えるうえでも重要な成果が得られたと考えられる。
昨年度に実施したRDF解析により、メカニカル処理によってカオリナイトの層間構造が大きく破壊されている様子が明らかになりつつある。この構造の乱れをより詳細に解析するため、DISCUSを用いて欠陥を有するカオリナイトの散乱パターンのシミュレーションを行い、実験パターンが再現されるかを検討する。また昨年度後半には、カオリナイトの比較対象として緑泥石を用いた熱分解実験などを開始した。この結果から、カオリナイトと緑泥石のXRDパターンの温度変化は、断層の温度履歴解析に有効であることが明らかになりつつあるため、実験と並行して各地の断層ガウジ試料のXRD解析も進める予定である。
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