研究課題
大陸衝突帯では,大陸地殻がマントル中へ潜り込み,再び上昇してくることで,極限変成作用を受けた岩石が露出している.また,火成岩と極限変成岩はしばしば共存する.そこで,今年度は極限変成岩の産状と周囲の岩石との地質学的な関係や極限変成作用と火成作用の関係を検討した.成果の概要を以下に記す.1.ゴンドワナ大陸衝突帯に位置する南極やスリランカには,超高温変成作用を受けた極限変成岩が分布する.この極限変成岩の周囲には通常の地殻内で形成した変成岩類が分布する.そこで,両変成岩類の関係を探るため,詳細な地質調査と年代測定を試みた.その結果,極限変成岩は周囲の変成岩中のブロックとして産するが,変成年代はほぼ同じであった.このことは,衝突帯深部で極限変成作用が起こると同時に通常の地殻環境下においても変成作用が進行し,さらに衝突帯深部の岩石がより早期に上昇を始め,その過程で周囲の変成岩中に定置したことを意味する.2.大陸衝突帯に産する極限変成岩と共存する火成岩は,変成作用の熱源の可能性がある.古生代末の衝突帯であるベトナム・コンツム地塊には,超高温変成作用を受けた極限変成岩に近接して変はんれい岩が分布する.特筆すべきは,超高温変成作用の時期が北部ベトナムから中国にかけて分布するマントルプルーム起源の洪水玄武岩(エイメイシャン玄武岩)の活動時期に一致することである.コンツム地塊の変はんれい岩の原岩形成年代をジルコンU-Pb年代法で測定した結果,洪水玄武岩や超高温変成作用の形成年代と同じであった.また,変はんれい岩の地球化学的特徴は洪水玄武岩に対比できる.したがって,年代と化学組成からコンツム地塊に産する変はんれい岩のマグマは,洪水玄武岩をもたらしたマントルプルームに由来し,なおかつ超高温変成作用の熱源としての役割を果たしたと推察される.
2: おおむね順調に進展している
大陸衝突帯の深部で起こっている地質現象の把握に努めることに今年度は注力した.その結果,衝突帯でしばしば観察される超高圧変成作用や超高温変成作用を受けた極限変成岩類の地質学的,年代学的な実態が明らかになってきた.このような今年度の研究成果は,研究主題の「地殻-マントル相互作用の実態解明」に向けて貢献できた.また,衝突帯深部で形成された極限変成岩の正確な温度圧力条件を見積もることは地殻物質がマントルと反応する条件を制約できる.今年度は極限変成岩に含まれるザクロ石に溶け込むTi含有量から新たな地質温度計を開発した.こうした温度計を天然の岩石に適応することで,衝突帯深部の地質過程の解明が期待される.
大陸衝突帯の深部で起こっている地質現状の把握に努めつつ,マントル起源のマグマの特徴を明らかにする.これまで,東南極セール・ロンダーネ山地に分布するランプロファイアーと閃長岩の岩石学・地球化学的特徴を検討し,これらのマグマが地殻物質によって汚染されたマントルに由来することが明らかになってきた.次年度は,こうした現象が起こった温度圧力条件を正確に見積もる予定である.そのため,マントルと共存する組成を示す火成岩(上述のランプロファイアー)を使って,高温高圧実験を試みる.この実験によって,大陸地殻がマントルに潜り込んだ深さを推定する.
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Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
巻: 111 ページ: 181-195
10.2465/jmps.151019b
巻: 111 ページ: 145-156
10.2465/jmps.151227
巻: 111 ページ: 157-169
10.2465/jmps.151230
巻: 111 ページ: 226-240
10.2465/jmps.150709
巻: 111 ページ: 89-103
10.2465/jmps.150829
巻: 111 ページ: 170-180
10.2465/jmps.151029a