研究課題
平成30年度は,大陸衝突の前と後で活動した火成岩類の化学的特徴にどのような違いがあるのかを検討した.大陸地殻を構成する岩石は多様であるが,大きく,苦鉄質岩と珪長質岩に区分される.一般に苦鉄質岩はマントル起源であるのに対し,珪長質岩は大陸地殻を起源とする場合が多い.岩石のNd同位体組成は,地球が惑星として生まれた時からの変遷を記録している.特にマントルからマグマが分離し,大陸地殻を形成する時にNd同位体組成は最も大きく変化することが知られている.すなわち,大陸地殻が形成され,長い年月が経った地域で生じた苦鉄質マグマと珪長質マグマのNd同位体組成は異なる.また,大陸衝突等で大陸地殻物質がマントルへ潜り込み反応すると,それまでのマントルNd同位体組成は大きく変化する.そこで,調査地域に分布する火成岩類の活動年代とNd同位体組成に着目し,年代共にNd同位体組成がどのように変化したのかを検討した.1.これまで報告されているセール・ロンダーネ山地中・西部に分布する火成岩類のジルコンU-Pb年代をコンパイルした.その結果,1100 Maより古い年代を示すジルコンはほとんどなく,火成活動の時期は1000から520 Maと長期にわたり,その間に3つの年代パルス,1000から900 Ma(ステージ1), 800から670 Ma(ステージ2), 640から520 Ma(ステージ3)が検出できる.2.これらのうち,ステージ1,2で活動した火成岩のNd同位体組成は苦鉄質岩,珪長質岩を問わず,コンドライトと比較したイプシロン値はいずれも正である.一方,ステージ3の火成岩類は,岩石種にかかわらず負のイプシロン値を示す.このことは,ステージ2と3の間にマントルのNd同位体組成を改変する事変があったことを示す.この事変こそが大陸衝突であったと推察される.
2: おおむね順調に進展している
セール・ロンダーネ山地における大陸同士の衝突年代が特定され,その前後で起こった火成活動の特徴を明らかにできた.ステージ区分された火成活動のうち,衝突前のステージ1と2では,正のイプシロン値を持つことで特徴付けられ,未成熟な大陸地殻の存在が示唆される.この未成熟地殻は,大陸地殻の成長を反映したと考えられ,海洋地域における沈み込み帯によって形成した海洋島弧の可能性が高い.すなわち,調査地域では,約3.5億年の間,成熟した大陸地殻の影響を受けないテクトニックセッティングに置かれていたことを示唆する.こうしたセッテイングはアラビヤ地塊や東アジア造山帯の形成過程に匹敵する時間・空間スケールを持つ.一方,ステージ3の火成活動は大陸地殻の影響を受けた痕跡があり,大陸同士の衝突によって,マントルと大陸地殻物質が反応したことを示唆する.すなわちステージ3の火成活動はマントルと地殻の相互作用の結果である.今後は,ステージ3の火成作用がどのような過程で進行したのかを検討し,地殻とマントルの相互作用の実態と大陸地殻の成長や分化(成熟)過程を解明する予定である.
2019年度はステージ3の火成岩に着目し,ステージ1,2の火成岩と記載的・岩石学的特徴を比較することで,地殻-マントル相互作用が大陸地殻の成長や成熟過程に及ぼした影響を評価する.具体的には,まだ年代が決定されていない火成岩体のジルコンU-Pb年代を測定し,ステージ3の火成活動史を明らかにする.その上で,ステージ3の火成岩類の成因的関係を明らかにする.ステージ3の火成作用には,大陸地殻物質の関与が想定されるが,大陸地殻物質の関与の程度が課題である.関与の程度を定量的に見積もるため,大陸地殻物質と初源的なマントル物質の同位体組成を推定する.そして,ステージ3のマグマ組成から起源マントルの同位体組成を推定し,その値が初源的マントルに対してどの程度大陸地殻物質の関与があったかを計算によって求める.そして,ステージ3のマグマの同位体組成を広域に調べることで,起源マントルの不均質性も明らかにする.このように起源物質を地域毎に明らかにし,大陸衝突に伴う地殻とマントルの相互作用の程度の違いの地域性や原因を議論する.
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