研究課題
本年度は、カンラン石とその高圧相中の欠陥とそれに伴う化学不均質に関して、合成試料と天然試料の高分解能TEM観察を行った。(1)合金系で報告されている転位芯への鉄の濃集(コットレル雰囲気)が、ケイ酸塩鉱物中でも生じるかを検証する実験を試みた。グリッグス装置により含Feカンラン石に10^7~8cm^-2の密度の転位導入した後、雰囲気コントロール炉にて、FMQ-IWバッファー相当の酸素分圧、1200~1400℃の条件で最大1週間の加熱を行った。TEM観察では、回収試料いずれからも有意なコットレル雰囲気は確認されなかった。 原子寸法差因子に基づく計算も、マントルの温度条件ではコットレル雰囲気の形成は非常に弱い、という結果を支持している。今後、高封圧下での加熱による検証も行う必要があるが、カンラン石の欠陥近傍における化学組成不均質は、上部マントルのレオロジーに大きな影響を与えない可能性が高いと考えられる。(2)強い衝撃変成を受けた隕石中に、これまで理論的考察でのみ報告されていた準スピネル構造の新ケイ酸塩高圧相(ε*相)を発見した。ε*相はカンラン石の安定高圧相であるリングウッダイト粒子とトポタキシャルな結晶方位関係を持つ、数ナノメートルのラメラ状の形態を示す。また、ε*相は母相のリングウッダイトに比べてFeに枯渇していた。同相は衝撃圧力の解放過程で、リングウッダイトから準安定的に形成され、相転移直後にε*相から母相のリングウッダイトに向かってFeが拡散したことが明らかになった。ε*相は、カンラン石が無拡散型メカニズムによりリングウッダイトやワズレイアイトへ高圧相転移する際に、中間構造としての役割を担う。このカンラン石の新しい高圧相転移は、隕石の衝撃変成の温度圧力履歴を制約するだけでなく、沈み込みスラブ中での相転移カイネティクスにも重要な役割を果たすことを示唆する。
29年度が最終年度であるため、記入しない。
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