研究課題
固体地球システムにおける「水」を含む揮発性物質の循環を理解することは、地球のダイナミクスと進化の理解に必要不可欠である。しかし、揮発性であるがために捉え難く、また固体試料中の系統的分析方法も確立していないため全容解明には遙かに遠い。そこで本研究では脱ガス作用、変質などの2次的な影響の少ない火山ガラスやメルト包有物の微量試料を対象に、揮発性元素の系統的な分析方法を確立し、ほとんど揃っていない揮発性物質のデータを揃え、地球内部物質循環に新展開をもたらすことを目的とする。本年度は海洋研究開発機構既設の2台の二次イオン質量分析計(NanoSIMS及びims-1280HR)を用いて、微小領域における火山ガラス中の揮発性物質(水、硫黄、二酸化炭素、フッ素、塩素)及びリン濃度の分析法を確立した。NanoSIMSでは極微小領域(2ミクロン)の測定が可能となり、ims-1280HRでは10ミクロンの領域で従来よりも分析精度が上がり、分析時間を大幅に短縮する(1点の分析時間約6分)ことが可能となった。本手法を応用し、国際深海科学掘削計画(IODP)で採取した前弧玄武岩質ガラス、ボニナイトガラスの揮発性物質及びリン濃度を測定し、地球内部物質大循環において入口となる沈み込み帯の揮発性物質の振る舞いについての研究に着手した。また、分析法に関して学会発表を2件行い、関係する多数の研究者と議論を交わし、今後の共同研究を受け入れる体制を整えはじめた。共同研究の手始めとして、地球内部物質大循環において出口となり、重元素同位体比組成からリサイクルした物質の寄与率が大きいとされる海洋島玄武岩に含まれるカンラン石中のメルト包有物の分析を行っている。濃度分析法は完成したので、今後はSIMSによる揮発性元素濃度の分析法に関する論文を執筆し、水素、硫黄同位体比分析法の開発に着手する。
2: おおむね順調に進展している
主に海洋研究開発機構既設の特徴の異なる2台のSIMS(NanoSIMS及びims-1280HR)を用いて、火山ガラスやメルト包有物の微量試料を対象に揮発性物質(水、硫黄、二酸化炭素、フッ素、塩素)及びリン濃度の分析法の開発を行った。SIMSでは濃度・同位体比が既知かつ均質な標準試料が必須であるが、天然試料と実験生成物を選定済みであったので、まず、超高空間分解能のNano-SIMSを用いて、標準ガラスの均質性を確認した。結果、揮発性元素を高濃度に調整した実験生成ガラス(Vol-3A)の硫黄濃度にミクロスケールの不均質が確認されたが他の揮発性元素濃度やその他の標準試料の候補としたガラスにおいて、不均質はみられなかった。また、同時にNanoSIMSにおける揮発性元素の分析条件も検討し、確立した。硫黄濃度に関してVol-3Aは用いないが、4つの生成ガラスと5つの天然ガラスをSIMSの標準試料として採用した。これらの水、二酸化炭素濃度決定にはフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて、フッ素、塩素、硫黄濃度には加水熱分解後、イオンクロマトグラフィを用いた。地球・隕石試料で報告される揮発性元素組成のほぼ全範囲を網羅する玄武岩質ガラスを揃えられた。また、アメリカ地質調査所(USGS)が発行するリン濃度の異なる4つの玄武岩ガラスを採用した。 ims-1280HRでも揮発性元素及びリン濃度分析の最適条件を見出し、両SIMSで火山ガラスの水、硫黄、二酸化炭素、フッ素、塩素及びリン濃度の分析法を確立した。本手法で、国際深海科学掘削計画(IODP)で採取した前弧玄武岩質ガラス、ボニナイトガラスから120試料測定し、沈み込み帯の揮発性物質の振る舞いについての研究に着手した。また分析法について学会発表を行い周知するとともに共同研究を促した。
濃度分析法はほぼ完成したので、今後はSIMSによる揮発性元素濃度の分析法に関する論文を執筆し、さらに国内外の研究コミュニティーに広く周知するとともに共同研究を受け入れる体制を整える。さらに超高感度・超高質量分解能SIMSであるims-1280HRによる水素、硫黄同位体比分析法の開発に着手する。というのもこれらの同位体比に関して上部マントルと地球表層物質では著しくことなり、リサイクル物質寄与率のよい指標となるからである。水素、硫黄同位体比分析用のSIMSの標準ガラスは揮発性元素濃度分析に用いた標準ガラスを用いる予定で、これらの同位体組成の均質性をims-1280HRで確認するとともに最適な分析条件も確立する。磁場を固定し、マルチコレクション検出による測定の方が安定していて分析時間も大幅に短縮できるので、水素同位体比に関しては16OH(Faraday cup)、16OD(SEM: 二次電子増倍管)をもちい、硫黄同位体比に関しては32S(Faraday cup)、34S(SEM)での測定を考えている。選定した均質なガラス試料の水素、硫黄同位体比を東京工業大学の安定同位体比質量分析計(IRMS)で測定し、分析法を確立する。また今後の応用研究のため、海洋研究開発機構、IODP、スミソニアン博物館所蔵の世界中の深海底で採取された火山ガラスの使用申請を行う。極微量であるが最良の試料から多元素濃度・多同位体組成の分析を行い、挙動の異なる元素を組み合わせることにより、上昇過程の脱ガスや混染の影響を除いて深部ソース情報の読取りが可能となり地球内部での揮発性元素分布や不均質性を解明する突破口を開く。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
The Origin Evolution, and Environmental Impact of Oceanic Large igneous Provinces, Geological Society of America Special Paper
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