最終年度の今年度はこれまでの実験条件の追試とデータの補強を行うために、衝突実験と固相気相熱反応実験を行い、生成物中のアミノ酸、核酸塩基、アミン、糖などの分析を行った。これまでの実験によって、初期地球の海洋中のアンモニア濃度が非常に高い場合に大気や海洋中の二酸化炭素を炭素源として多種のアミノ酸や核酸塩基が生成することが明らかになった。中には、生命に使われないアミノ酸や核酸塩基様物質の生成も明らかになった。海洋中のアンモニア濃度が冥王代の海洋で期待される程度に低い場合でも、最低でも生命を構成するアミノ酸のうち最も単純なグリシンが生成することを明らかにした。この場合、核酸塩基の生成が起こる可能性はあるが、その収率は低いことも判明した。さらに、生成物の中には糖の原料となるホルムアルデヒドが含まれることも明らかになった。このことは初期地球における糖の原材料の新たな生成源をしめす結果となった。リボースなどの糖は核酸塩基と結合して核酸を生成する原料となり、生命の起源において非常に重要な物質であるが、これまでは主に光化学反応で生成するものと考えられていた。 以上の様なこれまでに得られた成果について国際生命の起源学会、NASAアストロバイオロジー会議や生命の起源に関するゴードン会議で招待講演を行った。さらに、国内の学会での招待講演や市民講演会における講演で研究成果の発信を行った。研究成果は2本目の論文としてまとめ、投稿予定である。
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