研究課題/領域番号 |
15H03753
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
岡田 邦宏 上智大学, 理工学部, 准教授 (90311993)
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研究分担者 |
崎本 一博 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所・宇宙物理学研究系, 助教 (60170627)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン分子反応 / 極性分子 / イオントラップ / クーロン結晶 / シュタルク分子速度フィルター / 星間分子 |
研究実績の概要 |
岡田は当初の計画にしたがって,温度可変シュタルク分子速度フィルターのモンテカルロシミュレーション,設計,及び実機の製作を行った.3種の極性分子(ND_3,CH_3CN,及びCH_3F)に対してシミュレーションを行い,フィルター偏向部の曲率半径を50~1000 mm, 偏向角5~30度の範囲で変化させることにより,凡そ3~100 K程度の範囲で極性分子の並進温度を変化させることが可能であることを確かめた.シミュレーション結果に基づく設計を行い,温度可変シュタルク分子速度フィルターを完成させた.また,既存の実験装置を利用して以下の実験を実施した.1)低速アセトニトリル分子線とNe+の反応速度測定を行った.また,入射ガスノズルの温度を210 Kまで低下させることにより,CH_3CN + Ne+, CH_3CN + N_2H+の各反応において,反応速度定数を決定し,ノズル温度が295 K(室温)の場合と比較した.その結果,並進温度よりもむしろCH_3CNの有効回転温度が反応速度定数を支配していることを示唆する結果を得た.2)新たな分子イオンの生成法として共鳴多光子イオン化法を導入し,Ca+クーロン結晶中においてO_2+を生成することに成功した.また,生成したO_2+に低速アセトニトリル分子を衝突させ,反応速度を測定した. 一方,宇宙研の崎本はイオン分子反応に関する理論的研究を行った.具体的には,WKB近似をベースにして,イオン分子衝突反応への形状共鳴の影響を包括的かつ普遍的に理解する新しい方法を開発した.従来から知られている衝突による形状共鳴については、そのほとんどは弾性散乱についてであり、衝突反応の場合については意外と分からないことが多かったが,本研究により見通しのよい理論が初めて得られた.開発した理論は低温イオン分子反応での共鳴過程の実験的観測の可能性を探る上で非常に有用である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画通り,温度可変シュタルク分子速度フィルターの詳細な数値シミュレーションと,実機の設計・製作を完了した.また,実際に動作させるための備品等も購入済みであり,現在は装置を動作させる段階まできている.しかし,最初に装置の製作を依頼した業者との交渉が長引いた上,交渉がまとまらず,12月に再度別の業者へ製作を依頼しなければならなかったため,実際に装置を動作させるまでには至らなかったことが上記区分の理由である.
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今後の研究の推進方策 |
岡田は,製作した温度可変シュタルク分子速度フィルターを動作させ,シミュレーション通りの性能を有するかどうかを評価する.具体的には,シュタルク分子速度フィルターの出口に四重極質量分析計(QMS)を設置し,飛行時間法による低速分子線の速度分布の測定を行う.また,極高真空計とQMSとの相関測定を行って,イオントラップ領域の分子数密度を決定する.以上の測定を,昨年度製作した3種類の異なる曲率半径(50, 200, 600 mm)及び偏向角(それぞれ30°,30°,10°) をもつフィルター電極で行う.また,予算の都合上,昨年度製作できなかった交換用シュタルク電極(異なる曲率半径,偏向角をもつ電極)を追加で製作し,低速分子線の並進温度の範囲を3~100 Kまでカバーできるようにしていく.また,当初の予定通り,冷却線形イオントラップの設計・製作を行っていく.こちらは,既存の10 K冷凍機を活用し製作を行う予定である. 一方,宇宙研の崎本は,引き続き低温イオン分子反応に関する理論的研究を行う.特に,極性分子の回転温度の違いによる,イオン分子捕獲速度の変化についてその評価法を検討し,実験結果の解釈を行っていく.
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