研究実績の概要 |
岡田は昨年度完成させた温度可変シュタルク分子速度フィルターに,曲率半径1000 mm,偏向角 5°をもつ偏向部を新たに製作し,低速分子線の並進温度可変範囲を調べた。その結果,ND3, CH3CNの並進温度範囲をそれぞれ6~62 K, 9~110 Kに拡大することに成功した.一方で様々な低速極性分子(アセトン,エタノール,メタノール,重水)の生成に成功した.並進温度は概ね数K~数10 Kであり,反応速度測定を行なうための十分な数密度が得られた。その後,温度可変冷却イオントラップを動作させ,Ca+とアセトンまたはアセトニトリルとの低温イオン極性分子反応の並進温度依存性を測定した.その結果,極低温Ca+と各極性分子の反応性は十分に低く(反応速度は10^-5 s-1程度以下), Ca+が分子イオンの冷媒として十分に機能することを確認した.また,反応分岐比の測定に向けて,新たに飛行時間型質量分析計を導入した.テスト実験の結果は第73回日本物理学会年次大会にて発表した. 一方,宇宙研の崎本は自らが開発したPerturbed Rotational State(PRS)理論を用いてイオン-極性分子間(CH3CN及びND3とイオン)の捕獲断面積の計算を行った.この結果を用いて,岡田が測定した低温イオン極性分子反応CH3CN + Ne+ → productsの反応速度定数と比較した.計算方法は以下の通りである.まず,PRS理論によって計算された捕獲断面積を,実験によって求めた低速極性分子の並進速度分布によってコンボリューションし,回転量子準位ごとの捕獲速度定数を求める.その後,シミュレーションで求めた低速分子の回転準位分布によって平均捕獲速度定数を計算した.得られた結果を実験結果と比較したところ,PRS理論は実験結果を概ね再現することが明らかとなった.
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