研究課題/領域番号 |
15H03757
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大原 渡 山口大学, 創成科学研究科, 教授 (80312601)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プラズマ・核融合 / ペアイオンプラズマ / 水素負イオン |
研究実績の概要 |
原子状水素ペアイオンプラズマの実現に向けて,昨年度に製作した実験装置から改善設計された新装置を製作して,平行して実験ができる環境が整った.ここで以下のことを実施して,新たな事実が明らかになった. 熱陰極直流アーク放電で生成された水素プラズマを,厚さのあるアルミニウム製のプラズマグリッドへ照射して水素負イオンを生成した.偏向磁場を横切る過程で電子を除去して,正イオンと負イオンから成るイオン性プラズマを生成することができた.このイオン性プラズマ中の一部の負イオンが,下流域の局所空間において崩壊する条件を調べた.自由空間へのプラズマ拡散に伴う場合や,プラズマに強い電場または磁場を印加した場合に崩壊することが明らかになった.ここで,正負イオンの相対速度が小さい場合に崩壊することが分かり,イオンの加減速電極電位を適切に選べば,崩壊を抑制できることも明らかになった.負イオン化する照射正イオンは低エネルギーであることから,負イオン加速に伴い正イオンが減速・反射されて,プラズマ密度減少が顕著になる.これを回避するために,二成分のエネルギーを持つ正イオンを照射すると,イオン性プラズマ密度を大幅に増加させることに成功した. 負イオン崩壊や分子状正イオンの存在など,現状では理想とするプラズマにはなっていない.しかし,イオン性プラズマにおける静電波の励起方法の検討,および波動の測定手法を確立させるために,静電波の伝搬実験を行った.密度変調させる励起電極がメッシュのようにプラズマを横切る場合には,電圧条件に依らず負イオン崩壊することが分かった.ここで,プラズマが内側を通過する円筒電極に正弦波電圧を印加することによって,密度変調により静電波を励起させることに成功した.伝搬波の分散関係を測定したところ,後進波のような周波数帯が存在することを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画では,(1) 局所空間における負イオン崩壊機構の解明と崩壊させない手法の検討,(2) ラインカスプ磁場付真空容器の増設,(3) イオン性プラズマ中の静電波の伝搬測定,を実施予定としていた. (1) 生成された負イオンが,電子や中性ガスとの衝突ではなく,局所空間において崩壊する現象が見出された.より詳しく調べたところ,負イオン全てが崩壊しているのではなく,一部の負イオンが崩壊することを明らかにした.正イオンを金属壁に衝突させ,反射離脱する際にその一部が負イオン化していると考えている.正負イオンの引出加速する電圧を調整して,これらの相対速度を大きくすれば,負イオンの崩壊を抑制できることを見出した.ただ,崩壊する負イオンと崩壊しない負イオンの違いは何か,を明らかにすることはできなかった. (2) 水冷能力の高い壁面に設置されたラインカスプ磁場で閉じ込められた,直流アーク放電プラズマ生成装置を設計製作した.前年度に製作した装置の改良型で,より実験し易くなった.併せて,偏向磁場による質量分析器も新規に製作して,平行して実験が実施できる環境が整った. (3) 円筒形の電極に正弦波電圧を印加することによって,イオン性プラズマにおいて静電波を励起することに成功した.しかし,正弦波電圧の印加によって,負イオン崩壊が発生して,電子が混在するプラズマになった.不完全なプラズマではあるが,伝搬波の分散関係を測定したところ,後進波のような周波数帯が存在することを明らかにした. 以上のように,全て予定通りではないが,おおむね計画通りに実施して,研究実績で述べた事項が明らかになってきたので,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
原子状水素ペアイオンプラズマの実現と集団物性解明のためには,(1) 水素負イオンの高効率生成,(2) 負イオン崩壊の抑制と波動伝搬特性解明,(3) プロトン比の向上,(4) 正体不明のイオンピークの解明,が必要である.これらに対する推進方策は,次の通りである. (1) 水素負イオンの高効率生成は重要なポイントであり,これまで金属表面で負イオン化を目指していた.ここで陽極酸化法によって表面処理したアルミニウム酸化膜へ正イオンを照射して,負イオン生成を考えているこの酸化膜の仕事関数や導電率などの物性値が全く明らかになっていないので,これらを明らかにすると共に,負イオン生成への寄与を調べる予定である. (2) 負イオン崩壊を避ける条件探索する中で,二成分のエネルギーを持つ正イオン照射をすれば,生成されるイオン性プラズマ密度が大きく改善された.この改善されたイオン性プラズマ中で静電波の伝搬特性を測定して,集団物性の一端を明らかにすることを目指す.また,励起手法の改善にも取り組む. (3) 実験装置上限の放電電力では,分子状正イオンが多く存在して,原子状正イオンの存在割合が低い.水素分子ガスを供給するのではなく,ECR放電等を利用して水素原子ガスを真空容器に導入することにより,電離時に原子状正イオンが多く生成されるようにして,プロトン比の向上を目指す予定である. (4) イオンの質量分析をすると,想定外の偏向磁場において電流ピークが測定された.荷電粒子が質量分析器に入射したのではなく,ある中性粒子が入射して,質量分析器内で電荷を持ったため,想定外の質量ピークが得られたと推測している.偏向電場を利用して荷電粒子と中性粒子を分離した後に,荷電粒子の質量スペクトルを測定する.また,中性粒子に電場や光を印加して,荷電粒子に変換するかと試みる.これは負イオン崩壊機構解明の一環である.
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