研究課題
本研究の目的である、重元素多価イオンの極端紫外(EUV)スペクトルに関する分光データベースの構築に向けて、3種類の光源における実験および分光モデルとの比較・検討を進展させた。分担者の坂上が担当するコンパクトEBIT(CoBIT)装置において、新しい軟エックス線CCDカメラシステムと高分解能回折格子を組み合わせた高精度分光光学系によるEUV分光計測実験が開始された。その結果 、ランタノイド系元素のテルビウムを対象として初期的なデータが得られるとともに、光学系の設計通りの性能が確認された。代表者および分担者の田村が担当するLHD装置では、中性子遮蔽材や遮蔽構造の設置等の準備が完了し、平成29年3月から開始された重水素ガスを使用する実験において、引き続き分光計測が可能であることが確認された。分担者の東口(宇都宮大)が担当するレーザー生成プラズマでは、斜入射分光器を感度較正し、光子数を評価できるようにした上で、ビスマスを中心として重元素多価イオン水の窓軟X線光源を高出力化した。また、ランタノイド系元素についてNd:YAGレーザーおよび炭酸ガスレーザー生成プラズマのEUVスペクトルのデータ解析や理論計算との比較を進め、多価イオン物理国際会議およびJounral of Nuclear Instruments and Methods B誌に発表した。理論計算との比較に関して、分担者の村上や研究協力者が担当し、タングステンやランタノイド系元素に関して、Hullacコードによる原子構造計算および衝突輻射モデルの構築を進め、LHD装置で得られたスペクトルとの比較検討を行った。また、タングステンに関して、再結合過程の効果を組み込んだ衝突輻射モデルの構築に着手した。上記の本研究の進展状況に関連して、代表者が欧州物理学会プラズマ物理学会議において招待講演を行った。
2: おおむね順調に進展している
実験面では、LHD装置、CoBIT装置、レーザー生成プラズマ装置のそれぞれにおいて進展が見られた。特に、CoBIT装置における高精度分光光学系の性能が確認され、初期データが得られたこと、また、LHD装置の遮蔽構造の設置が予定通り完了し、これまで通りの計測器の性能が確認されたことから、当初の計画通りに進展しているといえる。理論計算においては、LHDの高温の場合のように比較的簡単なスペクトルについて、Hullacコードによる衝突輻射モデルと実験との比較ができる段階に到達したといえる。成果発表面では、欧州物理学会プラズマ物理学会議における招待講演や、査読付き論文誌における発表といった具体的な成果が得られ始めている。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
本年度は、各装置における EUVスペクトル観測実験において、応用上重要な元素を中心として計測対象をさらに広げ、引き続き基礎データの取得を進める計画である。CoBIT装置では、新しい高分解能光学系による観測を本格化させる。引き続き分光計測が可能であることが確認されたLHD装置では、本年度もこれまでに未着手の元素について、EUVスペクトルデータの取得を進めるとともに、これまでに蓄積された実験データについて理論計算との比較に基づく解析を進める。レーザー生成プラズマでは、Nd:YAGレーザー生成プラズマにおいて、光学的厚さの影響をより詳細に調べるために、視野角依存性も含めたデータの取得・解析も進める。分光モデル計算のための計算機環境を整備し、実際に各元素の原子構造計算および衝突輻射モデルによるスペクトルの計算を進める。分担者の村上が担当するHullacコードに加え、研究協力者の小池(上智大・客員教授)およびO'Sullivan(University College Dublin・教授)と協力して、CowanコードおよびGraspコードを用いた計算も進め、 データを蓄積するとともに相互比較を行う。モデル計算の実行およびこれまでの理論・実験データのデータベース化を目的として、ワークステーションの購入も計画している。さらに、EBIT実験に関連して新たな研究の展開を図るため、CoBIT装置でカバーできない高エネルギー領域のEBITの運用に携わる、米国国立標準技術研究所(NIST)のRalchenko博士を協力者として加えることも検討する。本計画の進捗状況を、過去の実験結果に関する解析の進展状況と合わせて、国内学会および国際会議において発表し、学術論文として投稿する。本研究のLHD実験に関連する成果については、6月に行われる欧州物理学会プラズマ物理学会議において、代表者が発表予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 8件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 15件、 招待講演 8件)
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