研究課題/領域番号 |
15H03766
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大島 康裕 東京工業大学, 理学院, 教授 (60213708)
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研究分担者 |
水瀬 賢太 東京工業大学, 理学院, 助教 (70613157)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子分光 / 分子間相互作用 / 分子クラスター / コヒーレント制御 / フェムト秒化学 / 結合エネルギー |
研究実績の概要 |
本研究は、分子間相互作用解明の典型的なモデルとして気相分子クラスターを対象として取りあげ、先端的光源技術を利用した量子状態制御という独自の方法論によって、分子間相互作用に関するエネルギーランドスケープの全貌を描くことを目的としている。研究2年度の平成28年度は、以下の成果があった。 1)昨年度には、極短パルス光励起による量子状態のコヒーレント制御法とイオンイメージング法を融合した新規計測法によって、窒素分子2量体の振動ならびに回転量子波束の生成と観測に成功した。本年度はその成果に引き続き、回転コヒーレンスに由来する信号をより長時間観測することに取り組んだ。その結果、回転定数を精度よく決定し、分子間距離について精密な情報を得られたばかりでなく、分子間伸縮振動について情報を与える遠心力歪み定数も決定することができた。さらに、クラスター内での窒素分子の内部回転に関する励起状態由来の信号の検出にも成功し、コリオリ相互作用によって大きく摂動をうけた特徴的な回転準位構造を明らかにすることができた。 2)ベンゼン-(H2)n (n = 1-3)クラスターについて、レーザー2重共鳴分光と飛行時間型質量分析を組み合わせた計測を行い、電子基底状態・第一励起状態・イオン状態における結合エネルギーを決定した。n = 1に対する値は、水素と同程度な分極率を有するNeがベンゼンと結合した系と比較して有意に大きく、静電相互作用の寄与を示唆する結果となった。また、水素分子1個あたりの結合エネルギーは、n = 1と2においては実験誤差内で同一であったのに対し、n = 3では2/3程度に減少した。この特徴的なクラスターサイズ依存性は、当グループによる高分解能分光学的研究から明らかになっているクラスターの構造とよい相関を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒素分子2量体は最も基本的な分子クラスターであり、分子間相互作用のモデル系として量子化学計算等による多数の研究対象となっている。一方、紫外~マイクロ波の領域において微弱な双極子遷移しか示さず、分光学的手法による研究は極めて困難であった。本研究では、インパルシブ・ラマン励起とクーロン爆発イメージングの結合による時間領域の計測という新規な方法論により、このクラスターの構造と振動ダイナミックスについて実験的にアプローチすることを可能にした。特に本年度の成果では、高分解能分光に匹敵する精度で回転エネルギー準位を決定することに成功しており、本手法の有用性を示すことができたと言える。 一方、ベンゼン-水素クラスターに関して結合エネルギーを実験的に決定した成果は、ナノカーボンによる水素吸蔵のモデル化や量子化学計算との比較等、関連分野へのインパクトは大きいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
窒素分子2量体については、回転エネルギー準位に関する実験データの取得はほぼ完了したと考えている。今後は、分子間振動についての実験情報の取得に注力する。特に、複数パルスに対する応答や偏光制御の効果を検討し、系統的なデータを蓄積することによって多自由度で非線形性の高い分子間振動の詳細に迫りたい。並行して、国内外の理論研究者と連携して、高精度の量子化学計算ならびに量子動力学計算の結果と実測データを比較することにより、分子間相互作用ポテンシャルの全体像を描きたい。 ベンゼン-水素クラスターについては、水素分子の核スピン統計に由来するパラ・オルソ異性体が存在する。水素分子の関与するクラスターは極めて多数の種類が研究対象となっており、スピン異性体における結合エネルギーの差異が議論されているが、実験的な測定例は皆無である。今回、結合エネルギーの測定を行ったのはオルソ異性体であるので、パラ異性体についても同様の測定を行い、結合エネルギー差の実験的な確定を行う。
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