研究課題/領域番号 |
15H03769
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 一也 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30300718)
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研究分担者 |
奥山 弘 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60312253)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トンネル顕微鏡 / 超高速分光 / 超高真空 / 表面分光 / グラフェン |
研究実績の概要 |
今年度の主な成果は以下の通り ①極低温走査トンネル顕微鏡への極短パルス光照射効果の探索 前年度構築した,極低温走査トンネル顕微鏡システムへのフェムト秒ファイバーレーザー光照射システムを用いて,まず近赤外パルス(1064 nm)の照射効果を調べた.光誘起トンネル電流増強が確認されたが,その時間応答から,探針熱膨張による効果が支配的であると判断された.目的の光誘起反応を目指すため,レーザー波長を第2高調波(532 nm)に変換したシステムを構築し,パルスレーザー光照射による,光誘起電流特性の評価を行った.また,液体ヘリウム温度に冷却した銅(110)表面で,吸着水分子クラスター,および解離水酸基のダイマーに対して,トンネル顕微鏡探針存在下でのパルスレーザー光照射を行い,特に,水酸基ダイマーのフリップ運動の頻度にレーザー光照射による変化が起きることを見出した. ②超高真空下でのアルカリ原子層間挿入したグラフェンの超高速光学応答の研究 超高真空下で,イリジウム単結晶表面に化学気相成長法により作成した単層グラフェンにアルカリ原子を蒸着すると,1 eV以上の電子供与がおこり,それに伴い可視域に強い吸収帯が現れる.この吸収帯の起源を探るため,吸収帯に共鳴したフェムト秒レーザーパルスによるポンプ―プローブ測定を行った.時定数約20 fsの超高速応答が観測され,これはグラフェンプラズモンが励起された効果によるものと考えている.この高速応答の励起高強度依存性を調べたところ強い飽和効果が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度最大の問題であった,低温条件下でレーザー集光のためのレンズ駆動機構が動作不十分になる問題は,駆動装置の電源部分を改変することで,解決の目途が立った.当初予定していた,銅表面の水酸基フリップ運動は光誘起の効果が予期していたよりも小さく,実効的なレーザー電場強度をさらに上げる工夫が必要であった.そのため,探針を銀に変更するなどの工夫を行った.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,532 nmレーザーを用いたパルス時間相関光学系は構築済みであり,今年度はまず,トンネル電流観測下で光照射による誘起電流を観測し,パルス遅延時間の関数として電流変化を抽出する.ヘリウム温度条件下で,吸着種の有無による光誘起電流の遅延時間依存性の変化を観測することを試みる.また,光学系改変により,レーザー強度の増大を図り,当初目的であった,水酸基フリップ運動やすでに実績のあるフェノールスイッチング現象に対する光誘起効果の探索・およびパルス遅延時間依存性の観測を試みる. また,単層グラフェンのプラズモンに関する研究については,吸着単分子のプラズモン増強ラマン観測への適用を視野にいれた機構解明・超高速応答の解明を行う.
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