研究課題/領域番号 |
15H03770
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榊 茂好 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (20094013)
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研究分担者 |
中谷 直輝 北海道大学, 触媒科学研究所, 助教 (00723529)
青野 信治 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (70750769)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 触媒・化学プロセス / 電子状態 / d電子 / 反応性 / 分子物性 / 多核錯体 / 溶媒効果 |
研究実績の概要 |
今年度は以下に示す3つの項目を主に研究した。 (1)DMRG-CASPT2法による大規模d電子擬縮退系の構造、物性、電子状態制御: (1-1)密度行列繰込み群(DMRG)に基づく計算手法を汎用量子化学計算パッケージMOLCASへ実装した。(1ー2)逆サンドイッチ錯体の電子状態制御に関する理論的研究:最近、実験分野で報告され、これまでに無い高いスピン多重度を持つ逆サンドイッチ錯体をCASTPT2法で研究し、サンドイッチされる分子がベンゼンから窒素分子やエチレンになるとスピン多重度が大きく異なること、非結合性のd軌道を主成分とする分子軌道がスピン多重度の支配因子であることを明らかにした。 (1-3)Cr-Cr五重結合錯体の小分子活性化反応:金属間五重結合を持つCr-Cr二核錯体による水素分子活性化反応の理論計算を行い、反応が容易に進行すること、溶媒分子の配位があると、生成物が変化すること、この反応にはδ型のd軌道が大きな役割を果たしていることを明らかにした。 (2)多核金属錯体の構造と結合:(2-1)Pd11Si6の組成を持つナノシート錯体が合成されたが、その結合と電子状態に関する知見は全く無い。主にDFT法を用いて、結合と電子状態に関する検討を行い、7配位SiがPd6原子と電荷移動相互作用を形成していること、その結果、7配位Si上のスピンがPdに移動し、最終的に閉殻一重項を持つことになることなど、結合に関する基本的理解を明らかにした。(2-2)遷移金属と典型金属を含む複合電子系による小分子活性化の理論的検討: Ru-Ga複合錯体による水素分子の活性化において、RuとGa二結合したS原子が協奏的に水素分子のheterolyticな解裂を行っていることを明らかにした。 (3)溶媒効果と擬縮退電子状態を持つd電子複合系の電子状態制御:3D-RISM法を改良し、GAMESSに実装した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DMRG-CASPT2法は使用することも容易でない。MOLCASプログラムに実装し、実際に金属間多重結合が連結した三核錯体の構造、結合、電子状態計算に応用した。また、逆サンドイッチ錯体の多様なスピン多重度が何によって支配されているのかを、擬縮退系のモデル計算から明らかにし、スピン多重度を制御する分子論的な方法を提案できた。このようなスピン多重度の制御因子の解明はこれまでにない理論研究の成功例である。 また、多重結合が連結した三核錯体に非常に大きな静的相関の存在を明らかにした。これまで、二核錯体の金属間多重結合の静的相関に関する研究は多いが、三核錯体での静的相関の重要性を指摘できた例はない。分子科学分野での大きな進展につながると期待される。 溶媒効果と関連して、結晶内での反応過程を検討可能なQM/MM法を開発してきたが、それを結晶内異性化反応に応用し、中間体の相対安定性が気相とは大きく異なることが溶媒系とは類似していること、しかし、反応の活性障壁は結晶中と溶媒中でも大きく異なることなど、反応に対する周辺効果の重要性を明らかにすることが出来た。 以上のように、当初の計画をおおむね順調に達成し、一部では当初、計画したい状の成果を出すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでいるので、これまでと同様に研究を進めるが、以下具体的に述べる。 DMRG-CASPT2法による擬縮退系d電子複合系の理論研究は、異核逆サンドイッチ錯体の電子状態、特に、特徴などを解明しスピン多重度をどのように制御することが可能か、これまでにない高いスピン多重度の実現などを理論予測する。窒素架橋ランタン2核錯体は逆サンドイッチ錯体の一種であるが、DMRG-CASPT2法により、電子状態と磁気的特性を解明し、分子磁石への応用性を理論予測する。類似の遷移金属錯体についても同様の検討を行い、分子磁石の理論化学的理解と予測を進める。 溶媒効果や結晶効果を取りこんだ3D-RISM-SCF法やQM/MM法とCASPT2法を組み合わせ、溶媒や結晶内での分子物性や反応特性の理論的解明をおこなうことにより、これまでにない視点での分子科学を展開する。これまでに、3D-RISM-SCF法をGAMESSに実装したので、今後、d電子複合系の理論計算に応用する。具体的には、白金(II)錯体への水和が酸素原子配位で起きるのか、水素原子配位で起きるのか、を解明し、これまでに無い溶媒和の描像を分子科学的に解明する。また、同様にQM/MM法を分子性結晶にも開発しているが、これを結晶内の分子の振る舞いの分子科学研究に応用し、吸収・発光スペクトルや反応過程への結晶効果を明らかにする。
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