研究実績の概要 |
開発した時間分解質量分析装置を使い、MALDI法に関係するマトリクスの脱離ダイナミクスを観測した。2,4,6トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)を用い、チタンサファイアレーザーの第二高調波(400nm)を二つに分割し、強度の弱いポンプ光(~7microJ)により主に固体の振動を誘起させ、強度の強いプローブ光(~10microJ)によりプロトン付加によるイオン化を行い、検出されるイオン強度の時間変化を観測した。ここではポンプ光、プローブ光単独ではイオンが観測されない条件で実験を行った。その結果[THAP+H]+イオンの脱離には光励起後13.2psを要することが分かった。さらにTHAPに構造が似ている1ヒドロキシ2アセトフェノン(HAN)を同条件で実験したところ、脱離には20psを要することが分かった。分子脱離には分子間振動モードを多量子励起することが重要であることが我々の過去の研究から分かっている。THAP及びHANの2量体及び3N-6則を仮定すると分子間振動モードの数は6と等しいが、実際は分子内振動モードと不可分であり、分子内振動モード数の多いHANが多くの分子間振動モードを持つことになる。得られた結果はTHAPに比べHANが相対的に多く持つ分子間振動モードが熱浴として働くため、脱離に必要なモードの振動励起が効果的に行われずに、脱離ダイナミクスが遅くなったことを示していると考えられる。実際、HANより極めて多くの振動モードを持つゼオライトをTHAPの熱浴として使用すると、[THAP+H]+イオンの脱利が120ps程度まで遅くなることを確かめてある。 スメクタイトを利用したMALDI法を行うことで、層間距離以下の分子サイズを持つ分子のみをサイズ選択的にイオン化できる新たな手法を開発した。またアンモニア終端ゼオライトにより燐酸ペプチドが高強度に検出できることを発見した。
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