研究実績の概要 |
本年度は、ゲルマニウム間三重結合化合物(ジゲルミン)とアセチレンとの反応により、無触媒にて[2+2+2]付加環化反応が進行し、対応する1,2-ジゲルマベンゼンが得られることを見出した。その分子構造と物理的性質を明かとし、新しい芳香族化合物という観点で有機構造化学に貢献した。特に、1,2-ジゲルマベンゼンは、平面構造をとらず歪んだ六員環を有するにもかかわらず、充分な芳香族性を有すると結論された点は興味深い。本反応では、遷移金属触媒を用いていないにもかかわらず、二分子のアセチレンがC-C結合を生成している、という点に注目し、さらに反応機構を精査した。実験と理論化学の両面から、この反応では鍵中間体として1,2-ジゲルマシクロブタジエンを生じることを見出し、実際、ジゲルミンとジフェニルアセチレンを反応させることで、安定な1,2-ジゲルマシクロブタジエンの合成・単離に成功した。この1,2-ジゲルマシクロブタジエンおよび前年度得られた1,2-ジゲルマシクロブテンは、剛直な四員環内にGe=Ge二重結合を有するユニークな構造であることから、これら環状ジゲルメンを軸とした小分子活性化反応を精査した。最終的に、これらの化合物は、カルコゲンやオレフィン類を活性化し、新たな複素環化合物を与えることを見出した。一連の反応機構を理論化学的にあきらかとし、環状ジゲルメンは、「二つの二価化学種ゲルミレンとして機能する」反応素子でであると結論できた。特に、これらのケイ素ー塩素結合の活性化反応を検討していたところ、Ge=Si=Geというアレン化合物を合成・単離することに成功し、これは二つのゲルミレンユニット(>Ge:)が、中心のゼロ価ケイ素Si(0)に配位しているユニークな電子状態であることを明らかとした。
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