研究課題/領域番号 |
15H03778
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋本 卓也 京都大学, 理学研究科, 助教 (20437198)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 硫黄 / チイルラジカル / 均一系触媒 / ラジカル反応 |
研究実績の概要 |
これまで文献で知られているチイルラジカル触媒はほぼすべて市販のチオールまたはジスルフィドを利用しており、研究代表者の精密に分子デザインされたキラルチイルラジカル触媒は唯一の例外といえる。代表者らはこの触媒を用いることで2014年[3+2]ラジカル環化反応による炭素5員環の触媒的不斉合成を確立している。本研究のさらなる展開として、ビニルアジリジンとアルケンのラジカル[3+2]環化反応によりピロリジンを得る新規反応を、チイルラジカル触媒によって実現することに挑戦した。本反応はフェニルチイルラジカルを用いても低収率でしか目的物が得られない一方、独自にデザインした嵩高いチイルラジカルを用いると収率が劇的に改善する。この理由としては、チイルラジカル2分子がアルケン1分子と反応する触媒失活経路が、触媒の立体効果により阻害されたためと考えることができる。また電子的効果も重要であることが分かり、高効率的に反応を進行させる触媒が完成した。本触媒は当初予定していた以上に多様な基質に適用可能であり、30種類余りのピロリジン誘導体をこのラジカル環化反応で合成することに成功した。さらにフラーレンの官能基化にもこの触媒系が有効であり、ピロリジン骨格を触媒的に導入したフラーレン誘導体を高収率で合成することにも成功した。本触媒系のより実践的な合成的利用として薬理活性化合物の合成にも挑戦し、短工程での新しい合成ルートが開拓された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビニルアジリジンとアルケンのラジカル[3+2]環化反応によりピロリジンを得る新規反応を、嵩高いチイルラジカル触媒によって実現することに成功した。基質一般性評価の過程で、嵩高いチイルラジカル触媒が当初予定していた以上に多様な基質に適用可能であるとわかった。結果、基質のスクリーニング量が増え、時間を要した。また得られる化合物も複雑・多様化し、想定した方法では構造決定できない事態が頻出した。本研究遂行上、すべての化合物の構造解析が必須であり、研究方式を見直しX線結晶構造解析と核磁気共鳴法を駆使した構造決定を行う必要が生じた。最終的にこれら課題を克服することで次なる研究課題に取り組んでおり、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、チイルラジカルを利用したビニルシクロプロパンおよびアジリジンとアルケンのラジカル [3+2]環化反応では、アルケン側に基質適用限界があることがわかっている。脂肪族、電子不足、内部アルケンやアルキンについてはほとんど反応が進行しない。その解決策として酸触媒または遷移金属触媒との共触媒系を検討する。このような系では将来的にキラルブレンステッド酸やルイス酸触媒さらにはキラル遷移金属錯体を用いた不斉化への展開が期待できる。また27年度に開発された嵩高いチイルラジカル触媒を用いることで、チイルラジカルと遷移金属触媒が直接相互作用し失活するのを防ぐことを期待できる。本研究により共触媒系の概念を確立し、以降の研究に繋げる。 同時にチイルラジカルの水素移動触媒能についての検討も始める。チイルラジカルには電子豊富な水素を引き抜き、ラジカル結合生成反応の後、水素を反応中間体に供与するという機能があり、この能力を最大限に利用する反応系および触媒デザインを探求する。
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