平成27年度には嵩高い芳香族チイルラジカルを用いたビニルアジリジンとアルケンの環化反応を実現し、平成28年度には嵩高いチイルラジカル触媒を用いた水素移動ラジカル炭素―炭素結合生成法の開発に成功した。これら研究成果を踏まえ本期間にはこれら反応の不斉化や協働触媒系の確立に向けた研究を行った。それら研究を推し進める中で、この二つを組み合わせた触媒系が効果的であることを見出した。具体的にはキラルかご状分子をチイルラジカル源とする触媒でビニルシクロプロパンとアルケンの環化反応を検討したところ、低いエナンチオ選択性で環化生成物が得られた。そこに各種ルイス酸または遷移金属錯体を二つ目の触媒として添加したところエナンチオ選択性の大幅な向上が見られた。さらにこの添加剤のスクリーニングを種々行ったところ、この添加剤側にも不斉源を導入することで、エナンチオ選択性が一層向上することを見出した。この結果はさらにかご状チイルラジカルと添加剤の不斉源のマッチ・ミスマッチの同定につながった。このようにして開発された触媒系は以前の研究で得られた合成の複雑な触媒においても20%程度しかエナンチオ選択性が得られなかった反応においても、60%を超える選択性が実現された。また本触媒は非常にかさ高い分子であり、その特性を生かして単純アルケンに対する[3+2]環化反応も円滑に進行し、中程度のエナンチオ選択性が実現されることを明らかとした。
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