研究課題/領域番号 |
15H03781
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
そ合 憲三 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 教授 (90147504)
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研究分担者 |
松本 有正 東京理科大学, 理学部第一部応用化学科, 講師 (20633407)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 不斉自己触媒 / 不斉の起源 / 不斉合成 / 同位体 / 石膏 / 不斉合成 / 不斉誘導 / そ合反応 |
研究実績の概要 |
ピリミジルアルカノールが不斉自己触媒として作用し,ピリミジン-5-カルバルデヒドへのジイソプロピル亜鉛の不斉付加において自己と同一構造のキラル生成物を与え,しかも鏡像体過剰率が向上する反応(そ合Soai反応)を用いて,不斉の起源の解明を目指した。まず,不斉自己触媒の構造を解明するため,反応系中で生成するピリミジルアルカノール亜鉛アルコキシドの単結晶X線構造解析を行い,4量体またはオリゴマー構造を形成することを明らかにした。次にアキラルな有機化合物であるジブチルヒドロキシトルエンが形成するキラル結晶の絶対構造とCDスペクトルを関連付け,キラル結晶存在下で不斉自己触媒反応を行って,結晶キラリティーと相関した絶対配置のアルカノールを得ることができた。また,窒素14と15同位体の違いにより生じるキラルなジアミンを不斉開始剤とする不斉自己触媒反応を行い,窒素同位体によるキラル化合物が不斉起源となることを見出した。さらに,種々のキラル化合物を不斉開始剤とする不斉自己触媒反応を行って不斉識別にも適用した。アキラルな無機結晶である石膏(硫酸カルシウム・二水和物)の劈開面はキラル表面を形成するので,本表面上で不斉自己触媒反応を行って表面不斉に相関した絶対配置のピリミジルアルカノールが高い鏡像体過剰率で生成することを明らかにした。本成果はアキラルな無機結晶のキラル表面がキラル有機化合物の不斉起源となることを示した意義をもつ。また,キラルな芳香族アルコールの存在下で不斉自己触媒反応を行うと,温度の違いにより生成するピリミジルアルカノールの絶対配置が逆転する興味深い現象を見出した。さらに,1-アザ[6]ヘリセンと2-アザ[6]ヘリセンとでは不斉開始剤に用いたとき,同一らせんであっても生成するピリミジルアルカノールの絶対配置が逆になることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
窒素14と窒素15同位体置換によるキラルジアミンが不斉起源となることを示した論文は,Angew. Chem. Int. Ed. のVery Important Paper及び表紙に採用され,高く評価された。本結果は全く前例がない。また,アキラル無機結晶である石膏の劈開面を不斉の起源とする反応も前例がなく,独創的と言える。さらに,同一不斉の方口座区アルコールを不斉源に用いたばあいでも,反応温度により生成物の絶対配置が逆になる現象は予期せぬ興味深いものであり,英国化学会機関紙Chemistry Worldにトピックスとして取り上げられた。1-アザ[6]ヘリセンと2-アザ[6]ヘリセンを不斉開始剤とする不斉自己触媒反応では,同じらせん方向であっても生成物であるピリミジルアルカノールの絶対配置が逆になることも予期せぬ興味深い結果である。以上のとおり,前例がない窒素同位体不斉やアキラル無機結晶のキラル表面を不斉起源とする不斉自己触媒反応を実現して,不斉の起源の知見を深めた。さらに反応温度による生成物の絶対配置の逆転,アザ[6]ヘリセンの窒素原子の位置が1位か2位かによる生成物の絶対配置の逆転など,不斉の起源に関して予期せぬ興味深い結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に引き続き,アキラルな有機化合物が形成するキラル結晶が不斉の起源となり得ることを示す。すなわちそ合反応を用いて,不斉の起源を探求する。例えば,アキラルなアミノ酸であるグリシンが形成するキラル結晶の絶対配置とCDの相関を明らかにし,そ合反応の不斉開始剤として用いる。また,自発的な絶対不斉合成,すなわち不斉源なしでピリミジン-5-カルバルデヒドとジイソプロピル亜鉛を作用させ,初期に生じる統計的揺らぎによる不斉の偏りを不斉自己触媒反応で増幅させる。さらに,28年度に見出した,温度によるエナンチオ選択性の逆転に検討を加える。
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