研究実績の概要 |
(1) タングステンのヒドリド(ヒドロシリレン)錯体のケイ素上の置換基を,従来主に使用してきたTrisyl基[Trisyl = tris(trimethylsilyl)methyl]と水素との組み合わせの変わりにEind基(Eind = 1,1,3,3,5,5,7,7-octaethyl-s-hydrindacen-4-yl)と水素との組み合わせに変え,首尾よく目的のシリレン錯体の合成に成功した。 (2) 鉄のヒドリド(ゲルミレン)錯体を新たに合成し,その構造と性質を明らかにした。この錯体は幾つかの有機小分子と温和な条件できれいな反応を行うことを示す予備的な結果を得ている。 (3) Trisyl基を持つヒドリド(ヒドロシリレン)およびヒドリド(ヒドロゲルミレン)タングステン錯体について,N-ヘテロ環式カルベン(NHC)を用いてプロトンを引き抜きアニオン性シリレン錯体とした後,トリアリールボランを用いてヒドリドを引き抜くことにより,金属とケイ素またはゲルマニウム間に三重結合を持つシリリン錯体およびゲルミリン錯体の合成に成功した。同様の方法を,Eind基を持つヒドリド(ヒドロシリレン)タングステン錯体に適用したところ,シリリン錯体が二量化した,八員環骨格を持つ錯体が結晶として高収率で得られた。この錯体は,溶液中で単量体のシリリン錯体と速い解離平衡にあることを見出した。 (4) 上述のEind基を持つシリリン錯体について,幾つかの有機小分子との反応を行い,いずれもタングステン-ケイ素三重結合が関与する新しいタイプの興味深い反応が起こることを明らかにした。 (5) カチオン性のタングステンのメタロゲルミレンおよびゲルミリン錯体を合成し,これらが水素と温和な条件で反応し,水素がゲルミレン上またはタングステン-ゲルマニウム三重結合に付加した錯体を与えることを見出した。
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