研究実績の概要 |
天然の光合成は、チラコイド膜内外に種々の反応場を設け物質変換反応を高度に制御している。本研究では、水-イオン液体二相系を反応場に用いる新しい人工光合成モデルの創出を試みた。具体的には、光水素生成分子システムを二相系に組み込むことにより従来の系にはない反応場の構築を目指した。その結果、本系において光増感剤から電子伝達剤への電子移動反応が主として水溶液中で進行し、その後電子伝達剤の一電子還元種がイオン液体相中へ相間移動することが強く示唆された。さらに、プロトン共役電子移動(PCET)に基づく一電子還元過程が進行することで知られる伝達剤を用いところ、効果的な光水素生成が確認された。 他方、水からの光水素生成の分子システムに用いられてきた光増感剤は600 nm付近の波長まで吸収を持たず、太陽光全体のエネルギーの20%ほどしか利用できないことが問題として挙げられる。そこで、800 nm付近までの近赤外領域を用いることによって、より効率的な水の可視光分解システムの構築を試みた。そこで、具体的には三核化配位子HAT (1,4,5,8,9,12-hexaazatriphenylene)を中心骨格として有し、800 nmまでの長波長域に吸収を有するルテニウム(II)三核錯体の合成を行った。本三核錯体を光増感剤、白金コロイドを水素生成触媒、及びアスコルビン酸を犠牲還元剤とするpH = 4.1の水溶液に700-800 nmの波長域の光を照射したところ、水素生成反応が進行することが確認された。この成果は、700 nm以降の近赤外領域の光での水素生成反応を分子システムにおいて実現する初めての例となった。
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