研究課題/領域番号 |
15H03787
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大場 正昭 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00284480)
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研究分担者 |
堀 彰宏 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特定研究員 (50595064)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多孔性金属錯体 / 核スピン変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、多孔性金属錯体のナノ細孔空間に規則的に束縛した分子・原子の特異な挙動と物性の解明、および量子凝縮相の創出を目指す。多孔性金属錯体の高い設計性、電子状態と構造の柔軟性を駆使して、ナノ空間のサイズと次元性を能動的に制御する。その空間に分子または原子を束縛し、離散的なエネルギー状態と柔軟な幾何・電子構造をもたせることで、バルク結晶では見られない分子・原子固有の多重安定性、外場による量子相転移の誘起を達成する。
平成27年度は、主に Hofmann 型多孔性金属錯体を用いて、(1) NO の細孔内挙動の解明、(2) I2 の細孔内挙動の解明, (3) H2 分子の電場誘起オルト-パラ量子相転移、を推進した。 (1) では、NO 雰囲気下 in situ 放射光 X 線回折およびIR スペクトルの温度依存測定から、細孔内において NO が単量体と二量体の間を変化することを見出した。また、この変化と同期して骨格の磁性が常磁性と反磁性の間を段階的に変化することを確認した。 (2) では、 粉末X線回折および磁化率の温度依存の反復連続測定から、Pt(II)Fe(II) および Pd(II)Fe(II) の Hofmann 型化合物を混合した固溶体にヨウ素と吸着させると、Pt(IV) に結合したI- とPd(II)サイトに束縛された I2 が存在し、加熱により Pd(II) サイトの I2 が細孔内を移動して Pt(IV) に結合することを見出した。磁気測定では、Fe(II) のスピン転移挙動が、I2 の移動に伴って、混合物の挙動から Fe(II)Pt(IV) が支配的な挙動へと変化することが分かった。 (3) では、多孔性の Prussian Blue 誘導体 (PBA) を用いて、H2 雰囲気下ラマンスペクトルと放射光粉末X 線回折の in situ 測定により、温度低下とともに細孔内でオルト水素-パラ水素転移が起こることを見出した。さらに強磁性を示す PBA を用いると、磁場引加により内部磁場を発生させることで、変換効率ならびに変換温度の上昇に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の各項目は、ほぼ予定通りに進展している。特に(3) の水素の核スピン変換に関しては、Hofmann 型多孔性金属錯体に加えて、PrussianBlue 誘導体においても高速な変換が可能であることを見出し、さらに磁気秩序化による内部磁場を用いることで、その変換効率と変換温度の向上に成功した。温度可変ガス雰囲気下 in situ ラマンスペクトルの測定系を組み上げることで、実験効率も大幅に向上することができた。さらにサンプルのスクリーニングを進め、細孔内における水素の分子運動の束縛による振動エネルギーの制御、ならびに細孔内に生じる内部磁場および内部電場の制御の指針を見出し、より効果的な細孔構造の設計を進めていく。 (1), (2) についても、当初の予定通りの進展を見せた。27年度は研究室の移転があり、実験室としては実質2ヶ月以上のロスがあったが、半年前に移設を完了させていた磁化率測定装置を有効に活用することで、課題進展に関しては、予想よりもロスを抑えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を基盤として、(1) NO の細孔内挙動の解明、(2) I2 の細孔内挙動の解明, (3) H2 分子の電場誘起オルト-パラ量子相転移、を引き続き推進する。 (1) では、細孔内での NO の構造変化を利用して、NO 密度制御下の in situ 磁気測定により磁気的相互作用の変化を追跡し、NO 間の強磁性的/反強磁性的相互作用のクロスオーバーを誘起する。 (2) では、ヨウ素を導入した固溶体の in situ ラマンスペクトル測定から、より詳細に細孔内のヨウ素の挙動を解明する。さらに、Pt とPd の比率を系統的に変えて、ヨウ素の挙動と骨格構造の磁化率の相関を調べる。 (3) では、細孔内での水素の運動を束縛するために、細孔に Li+ や Na+ などのカチオンを導入した PBA を用いて、核スピン変換能を検討する。骨格構造とカチオン間の内部電場勾配、および細孔内の磁場勾配を利用して吸着水素を励起し、オルト水素-パラ水素変換過程の禁制を解くことで、変換速度と変換温度の向上を目指す。 各項目が順調に進展した場合は、高密度 He 凝縮による高温量子凝縮相の創出に着手し、放射光を用いた電子密度解析と吸着下での断熱法による比熱測定から、吸着 He の細孔内における超流動特性を明らかにする。
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備考 |
プレスリリース(水素の高速核スピン変換のメカニズムを実験的に立証 ~効率的な水素利用に向けた量子力学的アプローチ~、平成27年7月30日)
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