本年度は、多孔性金属錯体のナノ細孔空間に規則的に束縛した分子・原子の特異な挙動と物性の解明、および量子凝縮相の創出を目指して、昨年度までの実験結果を基に、以下の3項目について研究を推進した。 (1) Hofmann型多孔性金属錯体におけるアルカン分子の細孔内挙動の解明:磁気双安定性を示す FePt Hofmann型多孔性金属錯体を用いて、鎖長 Cn (n=1-8) のアルカンについて系統的にアルカン雰囲気下 in situ 粉末X 線回折および磁化率の温度依存測定を行った。アルカンと細孔壁の間には CH-π 相互作用が働き、相互作用が弱いメタン以外は室温で細孔に吸着された。また、吸着に伴い、高スピン状態が安定化されることが確認された。このアルカン包接体の磁化率の温度依存性は、アルカン分子に応じて多様な挙動を示した。室温で液体のアルカン (n=5-8) の包接体は、すべて二段階のスピン転移を示し、n が大きくなるほどスピン転移温度が低下した。一方、室温で気体のアルカン (n=2-4) の包接体は、鎖長に依存して多段階のスピン状態変化を示した。特にプロパン包接体は、昇温過程で磁化率が一旦増加した後に減少し、再度増加する特異的な挙動を示した。これらの磁気挙動と構造変化の相関を粉末X線回折の温度依存から考察した。 (2) 多孔性金属錯体を用いたオルト水素-パラ水素変換: 磁性の異なる Prussian Blue 誘導体 (PBA) における細孔内でオルト水素-パラ水素変換の温度依存性を系統的に調べた。常磁性と反磁性の PBA の比較から、骨格内の常磁性中心は変換効率の向上に寄与していることが示唆された。一方で、常磁性と強磁性の PBA の比較からは、顕著な変換効率の違いは観測されなかった。これらの結果をもとに、水素吸着量および内部磁場のオルト-パラ変換への影響について考察した。
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