研究課題/領域番号 |
15H03788
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松尾 司 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90312800)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高周期14族元素 / シラノン / ゲルマノン / スタンナノン / シリレン / ゲルミレン / スタンニレン / 立体保護基 |
研究実績の概要 |
本研究では、高周期14族元素ー酸素二重結合化学種を創製し、小分子の活性化などの反応性の開拓を通して、典型元素化合物に関する先駆的な研究成果を格段に発展させることを目的とする。独自に開発したかさ高い「縮環型立体保護基(Rind基)」を駆使することで、シラノンやゲルマノン、スタンナノンなどの新しい典型元素不飽和結合化学種を合成する。それらの分子構造や化学結合について解明するとともに、結合電子に由来する特異な反応性を探究することを目標とする。 平成28年度は、種々のかさ高さのRind基(EMind基、Eind基、MPind基)を有するスズ二価化学種「ジアリールスタンニレン」および「ハロスタンニレン」を系統的に合成した。合成したスタンニレンはいずれも室温で安定であり、分光学的手法と結晶構造解析により同定した。比較的かさの小さなEMind基を有するブロモスタンニレンは結晶中でスズと臭素が交互に配列した一次元鎖ポリマー構造を形成するのに対し、かさ高いEind基を有するブロモスタンニレンは臭素原子がスズ原子間を架橋した二量体構造を形成することを明らかにした。また、比較的かさの大きなMPind基を有するジアリールスタンニレンと種々の酸素源との反応による「スタンナノン」の合成について調査した結果、亜酸化窒素(N2O)ガスを酸素源とした場合に反応が定量的に進行することを突き止めた。生成したスタンナノンのスズー酸素二重結合は電気陰性度の差に基づき高度に分極しており、グローブボックス内の僅かな二酸化炭素と反応して環状化合物を与えた他、系中のごく微量の水分とも瞬時に反応して対応するジオール体を与えた。 また平成28年度は、さらに高度に分極した鉛ー酸素二重結合化学種「プルンバノン」の合成に向けて、かさ高いRind基を有する鉛二価化学種「ジアリールプルンビレン」の合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高周期14族元素ー酸素二重結合化学種(重いカルボニル化合物)として、スズー酸素二重結合化学種「スタンナノン」の合成に成功しているものの、合成したスタンナノンは極めて反応性が高く純粋な単結晶を作製することが難しい状況にある。現在のところ、スタンナノンの単結晶X線構造解析は、水分子が反応したジオール体とのディスオーダーとして解析結果が得られている。また、鉛ー酸素二重結合化学種「プルンバノン」の前駆体として、鉛二価化学種「ジアリールプルンビレン」の合成に成功しているものの、熱安定性が乏しく、室温では固体状態でも分解することがわかった。今後、プルンバノンに合成変換するためには、より熱的に安定なジアリールプルンビレンを開発する必要がある。以上のように、合成ターゲットである「高周期14族元素ー酸素二重結合化学種」は電気陰性度の差に基づき高度に電荷分離した非常に反応活性な結合である。安定小分子の活性化など目標とする反応性を開拓するためには、立体保護基であるRind基のより精密なかさ高さの調整が必要な状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
かさ高いRind基を有する一連の14族元素二価化学種「ジアリールテトリレン」に関する研究成果のとりまとめを行う。分光学的手法や結晶構造解析などの実験化学だけでなく、DFT計算などの理論化学とインタープレイすることで、分子構造や電子物性に関する総合的な理解をすすめる。Rind基のかさ高さをより精密に調節するとともに、スタンナノンやプルンバノンの合成実験条件をより厳密にすることで、純粋な化合物として単離することを目指す。高度に電荷分離した二重結合に由来する特異な反応性について探究する。
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