サンドイッチ錯体は、有機金属錯体の特徴を顕著に示し、安定かつ官能基修飾が容易な金属錯体構造を与える。サンドイッチ錯体は単核金属錯体の分子設計に広く用いられており、最も有用な錯体分子構造のひとつである。本研究では、このサンドイッチ型分子構造の概念を拡張し、金属クラスター骨格を有するサンドイッチ型錯体を開発することを目指して研究をおこなった。特に複数の遷移金属原子を大環状不飽和炭化水素や多環式芳香族分子の間にシート状に組み込む反応を開発し、その形成メカニズムと金属集合パターンの解明を目指した。 平成29年度では、前年までに得た研究成果をもとにして、大環状単環式芳香族配位子をもつサンドイッチ型クラスターの合成手法の確立を目指して研究を遂行した。その結果、大環状不飽和炭化水素配位子を用いることで生じる四核金属シートのエッジ部分に複数の低原子価金属種が付加したクラスターの分子構造を解明することに成功した。金属に結合した大環状シクロノナテトラエニルは電子環状反応によりその炭素骨格を変化させるが、この骨格変化に及ぼす配位子効果も明らかにした。また、シクロオクタテトラエンにより支持された三核シートクラスターが高いベンゼン捕捉能を示すことを見出しているが、この三核シートクラスターによるビニルアレーン類の捕捉様式を解明した。ビニルアレーンは通常の配位部位であるオレフィン部位に優先してアレーン部位を介して三核シートクラスターに配位することを見出した。さらに、ビニルアレーンが四核シートクラスターに対して酸化的π-付加することも明らかにした。
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