テトラアリールアントラキノジメタン(Ar4AQD)誘導体は、二電子酸化により単離可能なジカチオンを与える電子供与体であり、両者のX線結晶構造解析から、中性分子がバタフライ型に折れ曲がった構造を持つ一方、ジカチオンは、ねじれた分子構造をもつ。このような中性体とジカチオン間の構造変化のため、酸化波と還元波の大きな分離が観測され、高い電気化学的双安定性を有する動的酸化還元(dyrex)系に分類される。folded型の中性体が一電子酸化されて生じたfolded型ののカチオンラジカルは、非局在化が小さく不安定なため、twisted型のカチオンラジカルへと速やかに構造変化するが、そのものは、中性体よりも酸化されやすいため、すぐに更なる一電子酸化されて、twisted型のジカチオンが生成する。一方で、twisted型のジカチオンは段階的な一電子還元を受けてされてジラジカルとなると、速やかにfolded型の中性体へ構造変化する。そのため、twisted型のカチオンラジカルは、ジラジカルとジカチオンに容易に不均化する。これが、Ar4AQDの一波形二電子移動並びに酸化還元電位の大きな分裂の理由である。今年度は、Ar4AQDを酸化還元型スイッチユニットとして用い、アリール基による酸化還元電位の調整、ジカチオン種の単離やX線構造解析による分子構造の決定の後、この骨格に表面修飾のための足場を連結する検討を行い、その分子の合成に成功した。このものは、その足場を基に基板表面で分子膜をつくることができるため、分子メモリとして作動することが期待される。
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