研究実績の概要 |
分子磁性という学問分野は我国が世界に誇れる基幹物理化学の一つである。この分野発の新規材料群で、学界・産業界に貢献することは重要である。有機材料の柔軟性に起因して、ラジカルと遷移金属イオンからなる物質や純粋な有機材料の中からスピン転移と構造転移がカップルする系を多く見いだした。 (1) ニッケル-ビスニトロキシド錯体においてスピン転移材料を得ることができた。非常に緩やかなスピン転移を伴い、単結晶-単結晶構造相転移を見せた。転移の最中に単結晶構造解析を行い、コマ撮りムービーを作成することもできた。なお、S = 2 と S = 0 をスイッチする材料は、鉄(II) 錯体以外では初めての例であり、これはスピンクロスオーバーの機構として全く斬新なものであった。 (2)鉄(II)イオンを用いたスピンクロスオーバー錯体においてpyridine環の 4位に置換基(Cl, Br, Me, MeO, MeS, N3, Ph, 3Th, 2Th, 4Py, 3Pyおよび H) を導入し配位子場を変化させSCO温度を制御することができた。アセトン溶液中での磁化率の測定から、置換基効果が見いだされた。スピンクロスオーバー温度の置換基依存性をハメット定数を用いて議論した。 (3)空間的に近接した距離にラジカルを配置するように分子設計されたビラジカル類を合成した。固体あるいは溶液において、ビラジカル/共有結合の平衡が見られることを期待した。現実には比較的強い磁気的カップリングが得られたものの、固相平衡反応もしくは溶液相平衡反応は見られなかった。室温においても反磁性を示すビラジカルを合成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の項に合わせて、テーマ(1,2,3)についてそれぞれ記す。 (1)有機ラジカルとニッケルイオンからなるスピン転移材料の研究は数年前から着手していて、今年度報告できるようになった。この系はS = 2 と S = 0 をスイッチする材料は、鉄(II) 錯体以外では初めての例であり、これはスピンクロスオーバーの機構として全く斬新なものであった。進捗状況は概ね満足できるものである。 (2)室温で動作する分子磁性材料を開発するテーマにおいては、鉄(II)錯体の中から、ちょうど室温をまたぐスピン転移(スピンクロスオーバー)を起こすものが見出された。やや室温より低いところで転移する物質では、熱ヒステリシスも実現できた。超分子的な観点、結晶工学的観点から、置換基の導入に対してスピン転移温度(構造相転移温度)のチューニングを行うことが重要な目標の一つであったので、それが実現できたことは当初の期待を上回る成果であった。 (3)「ビラジカルスピンプローブ」というカテゴリーのテーマにおいては、当初の目標である、分析化学への展開であるとか、電子物性材料への応用については成果はまだである。近接したビラジカルという特異な構造をもつ異常な分子を得た。進捗状況としては概ね計画通りであった。
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