研究実績の概要 |
平成28年度は、まず、ジアリールエテンの光スイッチングに伴うラジカル間交換相互作用(J)と一次の超分極率(β)の変化についてDFT計算を用いて検討することにした。5,5'-diphenyl-di(3-thienyl)ethene 1、5,5'-diphenyl-di(2-thienyl)ethene 2、2,5-diphenyl-di(3-thienyl)ethene 3について検討を行った結果、分子2のスイッチング方向は、分子1の反対であることが分かった。分子3のスイッチング方向は、Jの変化に関しては分子1と反対であったが、βの変化に関しては同じであった。すべての分子において、βの変化割合はJの変化割合より小さかった。また、チオフェン部分を酸化してS,S-ジオキシドにした場合も、上記の結果には大きな違いは見られなかった。本研究により、Jとβの光スイッチングの基本動作原理を明らかにすることができた。 また、昨年度までに計算により明らかになった、オレフィンワイヤにおける交換相互作用の小さい減衰定数を実証するために、オリゴチオフェン-S,S-ジオキシドの減衰定数を実験的に求める試みを行った。交換相互作用をESRスペクトルの線形のシミュレーションから求めるための分子設計指針についてまず検討した後に、ベンゼン環とチオフェン環の交換相互作用の違いについて検討し、チオフェン環の方がベンゼン環に比べて相互作用が大きいことを明らかにした。今後チオフェン-S,S-ジオキシドについて検討を行い、減衰定数の違いについて定量的に比較する予定である。
|