研究課題/領域番号 |
15H03800
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
塩見 大輔 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (40260799)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キラリティー / ESR / 円偏波 / SQUID / 磁化率 / ラジカル |
研究実績の概要 |
キラリティをもつ磁性体には,特異な磁気キラル効果が期待される.従来のキラル磁性研究は,もっぱら光学遷移に現れる効果(磁気光学効果)を指向して調べられてきたが,本研究ではスピンを直接捉えつつキラリティを磁気分光学的に評価できる,実用レベルでのキラルな電子スピン共鳴(ESR)法を提案した.マイクロ波を円偏波(円偏光)化してそのESR信号を検出するには,これまでいくつかの技術的な困難があったが,マイクロ波照射下で定常的な縦磁化を検出するという斬新な方法をとることでこれを克服する.さらに,この円偏波の磁気共鳴実験を,熱エネルギーが磁場のエネルギーとほぼ同じ桁になる,またはひと桁小さくなるような超低温環境で行なえるシステムを設計,製作することを目的とする. 前年度におこなった,円筒導波管を兼ねた細径クライオスタットの形状設計に引き続いて,今年度は,その最適化をおこなった.電磁場シミュレーションを援用した形状探索(コーン構造の挿入を含む)の結果,円筒導波管の管端での反射の影響を抑えることが当初の想定を超えて困難であることがわかった.マイクロ波のだ円率の低下,すなわち直線偏波成分の混入は不可避であることがわかった.2~4 Kの低温ヘリウムガス雰囲気にした試料空間に,金属円筒を挿入するという本アプローチでは,円筒導波管内のマイクロ波(円形TE11モード)を用いる限りは,この直線偏波成分の混入を抑えるのは難しい.電波吸収材を適切な位置に配するなど,より積極的なだ円率維持のための方策を検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始時にすでに想定していた困難(のひとつ)ではあったが,導波管の管端など微細な構造に由来するマイクロ波反射波の干渉が,だ円率(円偏波の純度)に対して当初の想定以上に大きな影響を与えることがわかった.過去の研究で得られていた円偏波純度を圧倒的に凌駕する「高純度」円偏波は,本課題の中心テーマであることから,進捗状況としては遅れていると評価せざるを得ない.電波吸収材などを用いれば反射波の低減は図れるはずだが,その発熱により必然的に低温環境は乱されることになる.しかし,実験が可能な最低到達温度(base temperature)を少々犠牲にしてでも,円偏波の純度を優先した方策を今後検討することとする.
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今後の研究の推進方策 |
導波管の先端に電波吸収材または無反射終端を取り付けたモデル系を用いて,マイクロ波の反射の影響を電磁場シミュレーションによって調べる.また,導波管内壁表面での散乱が円偏波の振幅の分布に影響を与えることが考えられる.そのため,内壁表面の研磨を検討する.構造既知のラジカルを基準試料として用いて,円偏波ESRを測定する.基準試料は,結晶中に反転中心をもつアキラルな構造をもつニトロキシドと,アキラルな空間群に属するキラル結晶を選び,その各々について,左右円偏波および直線偏波の照射によるESRスペクトルを比較検討する.マイクロ波の強度(パワーまたは振幅)の空間分布として評価してきた円偏波の純度と,実際のラジカル試料で得られるESRスペクトルの変化との関係を評価する.
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