研究実績の概要 |
医薬品合成などに応用可能な有用合成中間体である、キラル有機ホウ素化合物や芳香族ホウ素化合物を効率よく合成する方法を多数開発することに成功した。 1.インドール類のエナンチオ選択的脱芳香族ホウ素化反応に世界で初めて成功した。光学活性銅(I)触媒を用いると、光学活性ホウ素化インドリンが高収率かつ高エナンチオ選択的に得られた(Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 8809)。2.アルケニルケトンの高選択的環化ホウ素化に成功した。他の方法では合成がむつかしいシクロブタニルホウ素化合物が高立体選択的に得られた(Synlett, 2015, 272)。3.ヘテロ芳香族化合物のシリルボランによるホウ素置換反応を報告した。塩基触媒存在下で、反応がスムーズに進行し、対応する芳香族有機ホウ素化合物が高集率で得られた。また、アルケニルハライドに同様の反応を適用してみたところ、立体保持で反応が進行し、対応するアルケニルホウ素化合物が高収率かつ高選択性で得られた(Chem. Sci. 2015, 6, 2943)。4.ピリジン類の光学活性銅(I)触媒による不斉脱芳香族ホウ素化反応を検討し、ピリジニウム塩からの部分還元によって生じた基質から、高エナンチオ、ジアステレオ選択的にホウ素化反応が進行することが明らかになった。この反応では、対応する光学活性置換ピロリジンが得られ、抗うつ剤の一種である(-)-Paroxetineの短段階合成に成功した(J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13, 4338)。5.末端アルケンのマルコフ型ヒドロ(プロト)ホウ素化の開発に世界で初めて成功した(Chem. Commun. 2016, accepted)。今回、オリジナルの触媒を開発することにより、マルコフニコフ型のホウ素化を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
わずか一年間のうちに、下記の五項目にわたる新反応、新発見を達成したことは特筆に値する。これらは海外一流紙に掲載されており、そのレベルの高さを示している。 1.インドール類のエナンチオ選択的脱芳香族ホウ素化反応に世界で初めて成功した。2.アルケニルケトンの高選択的環化ホウ素化に成功した。3.ヘテロ芳香族化合物のシリルボランによるホウ素置換反応を報告した。4.ピリジン類の光学活性銅(I)触媒による多段階不斉脱芳香族ホウ素化反応に成功した。抗うつ剤の一種である(-)-Paroxetineの短段階合成に成功した。5.末端アルケンのマルコフ型ヒドロ(プロト)ホウ素化の開発に世界で初めて成功。末端アルケンのヒドロホウ素化は、通常アルケンの末端にホウ素が導入されるアンチマルコフニコフ型の反応が進行する。一方、芳香族アルケンでは、アルケンの内部にホウ素が導入されるマルコフニコフ型のヒドロホウ素化が進行することが知られていたものの、脂肪族アルケンでは例がなかった。 (J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13, 4338; Chem. Commun. 2016, accepted; Synlett 2015, 26, 2, 272; Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 8809; Chem. Comm. 2015, 51, 9655; Chem. Sci. 2015, 6, 2943)とくにJ. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13, 4338に関しては、ACSの月間most read paperとなった(トップ20)。また、Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 8809に関しては、Synfacts 2015, 11, 840 でハイライトされた。以上のような結果は、当初の予想を大きく超えている。
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