研究課題
モリブデン触媒による不斉閉環メタセシス反応を利用して、ラセミ体のキラルな(ブロモシクロペンタジエニル)マンガンーカルボニル錯体を効率良く速度論分割する手法を開発した。シクロペンタジエニル基にビニル基を有する基質においては、両エナンチオマー間の相対速度比は100以上にもなり、98%eeを超える光学純度の架橋生成物が得られる。シクロペンタジエニル基上のブロモ基はブチルリチウムにより光学純度を保持したままリチオ化可能であり、適当な求電子剤と反応させることにより様々な誘導化が可能である。これらの面不斉マンガン錯体誘導体の中で、ジアリールホスフィノ基を有す化合物は、ホスフィンーオレフィン二座配位子として作用し、ロジウム触媒不斉炭素ー炭素結合生成反応において、極めて高いエナンチオ選択性を示すことが見出された。2,5-ジアルケニルホスホリル基を有するホスファシマントレン誘導体はCs対称であり、モリブデン触媒による不斉閉環メタセシスにより非対称化される。この反応で、アルケニル基として2-メチルプロペニル基を有する基質を用いると、99%eeを越えるほぼ完全なエナンチオ選択性が達成されることを見出した。こうして得られた面不斉ホスファシマントレン誘導体は、ルイス塩基性であり、遷移金属へ配位できる。ここで得られた光学的に純粋なホスファシマントレン誘導体をパラジウム触媒不斉アルキル化における不斉配位子として利用したところ、74%eeの選択性で反応が進行した。また、不斉閉環メタせシス反応を利用して、配位不飽和16電子錯体であるジルコノセンジクロリドの不斉合成にも成功した。Cs対称基質の不斉非対称化により、最高98%eeで面不斉ジルコノセン誘導体を得ることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
ハーフメタロセンであるシマントレン誘導体の不斉合成(ラセミ体の速度論分割、およびCs対称基質の非対称化)、配位不飽和メタロセンであるジルコノセン誘導体の不斉非対称化をいずれも非常に高いエナンチオ選択性で達成しており、順調に計画が推移している。また、我々の見出した不斉合成手法で得られた面不斉化合物が、不斉配位子や不斉触媒として利用可能であることも示しつつあり、この点でも当初の計画以上の成果を挙げていると言える。
2016年度までの成果を基に、開発した反応によって得られる面不斉化合物の利用について検討を加える。これらの生成物を不斉触媒として利用することができれば、「不斉触媒を『触媒的に不斉合成する』」というタンデム不斉触媒プロセスが構築できることになる。また、金属中心不斉の制御、金属に配位した配位子上の「ヘテロ原子に由来する中心不斉」の制御といった、従来例の無い不斉のコントロールにも挑戦する。
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