研究実績の概要 |
本研究の目的は、炭素小員環の特徴(歪みエネルギーに由来する高反応性、立体的なコンパクトさ)とヘテロ原子の特性(カルボアニオンおよびカルボカチオン活性種の安定化、多様な官能基への変換)の組み合わせによる独自の反応設計を行い、従来の天然物合成を刷新する効率的合成手法を開発することにある。 初年度から検討を開始した、4員環と6員環がフューズしたビシクロ[4.2.0]オクタン骨格の立体選択的構築法に関連して、以下の新知見が得られた。すなわち、エポキシドの酸素求核剤による開環反応において、4員環骨格を有する化合物であるスクアリン酸のジアニオンが高い反応性を示すことを見出した。酸素求核剤は、酸素原子のHardな性質を反映して塩基性が高い一方、求核性は低い傾向にある。一般には、カルボン酸陰イオンやスーパーオキシドアニオンが酸素求核剤として用いられるが、反応性の低さや適用範囲の狭さが問題となってきた。スクアリン酸(正式名3,4-ジヒドロキシ-1-シクロブテン-1,2-ジオン)は、炭素4員環上に4つの酸素原子を有し、そのジアニオンは共鳴構造と芳香属性により高度に安定化されている。このため、スクアリン酸ジアニオンの塩基性は低く、酸素原子の求核性は高くなっていると考えられる。 一方、これとは独立に2,2-ジビニルシクロブタンカルボニトリルを用いる新たな8員環構築法を見出した。すなわち、この4員環ニトリルから調製したアニオンを環状ケトンに付加させて合成した第3級アルコールを脱水反応の条件に付すと、生じたアルケンからCope転位反応が進行してシクロオクタジエン誘導体が得られる。さらに、このものを無水マレイン酸と共に加熱すると、分子間でDiels-Alder反応が進行し、6-8-5や6-8-6縮環骨格が効率的に構築できた。この知見は、複雑な縮環骨格を有するテルペノイドの合成に応用可能と期待される。
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