研究課題/領域番号 |
15H03829
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井原 敏博 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40253489)
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研究分担者 |
吉本 惣一郎 熊本大学, 大学院先導機構, 准教授 (30323067)
今堀 龍志 東京理科大学, 工学部工業化学科, 講師 (90433515)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | DNAコンジュゲート / 発光性希土類錯体 / 時間分解発光測定 / DNAサーキット / フェロセン / シクロデキストリン / シグナル増幅 / 協同的シグナル生成 |
研究実績の概要 |
前年度までに、本研究推進に必要なDNAコンジュゲート、およびDNAサーキットを用いたシグナル増幅に必要なすべてのDNAの合成を行った。 希土類発光錯体の触媒的生成を利用した検出系 EDTA-DNA/Phen-DNAを用いた希土類金属錯体の発光を利用した増幅型シグナル検出に関する検討を行った。シグナルを増幅させるためのDNAサーキットとしてはエントロピー駆動型の鎖交換反応を採用した。EDTA-DNAコンジュゲートに二つの短いDNAがハイブリダイズしたタンデム2本鎖を初期の2本鎖とし、この2本鎖に対してターゲットを触媒とする鎖交換反応が自律的に進行して最終生成物として2本鎖DNA、EDTA-DNA/Phen-DNAが生じ、その末端で発光性の希土類金属錯体を生成する仕組みである。ターゲットDNA(フルマッチ、またはミスマッチ)/DNAコンジュゲート(EDTA-DNAとPhen-DNA)/Fuel DNAの比、温度、増幅時間など様々に条件を変えて系統的に最適化条件を検討した。その結果、Eu3+、およびTb3+存在下、それぞれ赤と緑の発光により、10倍以上の高いコントラストでターゲットの検出が可能であることを示すことができた。希土類錯体に特徴的な長寿命の特性を利用して、時間分解発光測定法により高感度計測が可能であった。 増幅型電気化学的検出系 CyD-DNA/Fc-DNAを用いたFcの電気化学シグナルを利用した増幅型バイオセンシングに関する検討を行った。希土類の系と同様のエントロピー駆動型のDNAサーキットを採用した。初期のタンデム2本鎖末端にβ-CyD/Fcの包接錯体を形成させておき、ターゲット添加に伴って2本鎖が触媒的に解離して本来のFcの活性が回復する仕組みである。改善の余地はまた大きいが、上記と同様の条件検討の結果、電気化学シグナルを増幅することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者はこれまでの研究をとおして、DNAの合成、および修飾の知識と技術を有しているので、ABA-DNAの化学的ライゲーションの系を除いて、研究に必要なすべてのDNA、DNAコンジュゲートを比較的順調に合成することができた。 希土類金属錯体の触媒的生成に関しては、当研究グループにノウハウがあり、EDTA-DNAとPhen-DNAの追加合成等も滞りなく行うことができるため、実験回数を重ねることが可能であり、十分な条件検討を行うことができた。一方、増幅型電気化学的検出系に関しては、使用するコンジュゲートCyD-DNAとFc-DNAのうちCyD-DNAの合成収率が高くない上に、一回の実験に多くのコンジュゲートを使用するため網羅的に条件を振って最適化するまでには至っていない。現在は電気化学系の検討の初期段階として溶液中でリリースされたFc-DNAの電気化学シグナルを計測しているが、今後はこれを相補的なDNAを修飾した電極に濃縮して感度を向上させる予定であるので、この段階での条件の最適化はこの程度でよいと判断している。ABA-DNAコンジュゲートの合成に関しては方針を転換し、ABAアミダイトの合成からABA活性エステルに変更したが、この合成にもやや難航している。構造中のアミノ基の保護基であるNVOCを温存した状態での(メチルエステルの加水分解)の収率が上がらないためである。現在、より温和な条件下でのケン化に関する情報を得ているので、前段階までの中間生成物を貯めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
ABA-DNAコンジュゲートの合成 ABA(アシルベンジルアミン)は、連続するシッフ塩基形成による環化、およびその後の自動酸化を経てピラジン環を形成し、蛍光性の生成物ABA2を与えると考えられる(DFT計算で予測済み)。本年度はABAの活性エステル体を合成する。 CyD-DNA/Fc-DNA系によるDNAの増幅型電気化学検出 CyD-DNAとFc-DNAの適切な複合体においてFc由来の電気化学シグナルを抑制できることは既に確認している。前年度までに、DNAサーキットによるDNA複合体の解離によりFcがCyDから脱離してシグナルが触媒的に回復することを確認した。今年度は、DNAサーキットから放出されたFc-DNAを相補的なDNAを修飾した電極に濃縮して数桁の感度向上を試みる。Fc-DNAに相補的なDNAの修飾量、修飾法、表面処理、ターゲットとDNAコンジュゲート、およびFuel DNAの量比、温度、増幅時間などの条件を最適化して高感度化を目指す。さらに、DNAやRNA以外のターゲット、たとえば、非核酸分子の検出にも挑戦したい。アプタマーをインターフェースとして使用すれば原理的には可能なはずである。 DNAサーキットによる触媒的希土類錯体生成を利用した核酸検出 EDTA-DNAとPhen-DNAをDNAサーキットに導入することで、希土類錯体を触媒的に生成させ、これをmiRNAや非核酸分子の高感度検出に応用する。具体的には、ヘアピン開放型、HCR(hybridization chain reaction)、およびHCRで用いるヘアピンの極性を反転して閉じた複合体である十字形DNAを形成するタイプのサーキットを利用する予定である。
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