研究課題/領域番号 |
15H03831
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
中西 淳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 独立研究者 (60360608)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞移動 / がん / 上皮間葉転換 / ケージド化合物 / メカノバイオロジー |
研究実績の概要 |
上皮間葉遷移(EMT)はがん細胞の悪性化のキーステップであるが,細胞移動挙動の「質的な」変化のために,その定量性・生理適合性を満たした決定的な評価系が未開発であった。本研究は,申請者が進めてきた光応答基板による細胞集団の規格化とスイッチング機能を活かしたEMT現象の定量的・ハイスループット評価系や,生体組織の力学特性やがん浸潤時の環境変化を模倣した生理適合的EMT評価系を開発することを目的としている。本年度は,上記目標の中から細胞集団の規格化と画像解析技術を基にしたEMT定量化の実現とハイスループット化を目指して新規光分解性分子の合成・評価に取り組んだ。 光応答基板上に半径140umの円形領域を形成し,そこに上皮細胞株のMDCKを付着させ,細胞移動の様子を位相差顕微鏡によりタイムラプス観察した。得られた画像を粒子画像流速測定法(PIV)で解析し,得られたベクトルデータの空間相関を求め,その曲線から相関距離を求めたところ,相関距離は時間とともに増大した。それに対して,予めTGF β処理によりEMTを誘導した細胞では,逆に相関距離が減少していく様子が観察された。この結果は,相関距離を指標にEMTの進行度を定量化できることを示唆している。現在,円形パターンの半径やTGFβの濃度などの影響を調べており,また,ウェスタンブロッティングなどによる生化学的な解析との比較を行っている。 また,2-ニトロベンジル基のα位のメチル基を嵩高い官能基に置換した新規光分解性分子を合成し,修飾基板表面でその光分解速度を評価したところ,基板表面においても従来の分子よりも高い光分解速度を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EMT定量化については,モデルケースとしてのTGFβ処理MDCK細胞で,相関距離を指標に定量化する道筋が築かれており,その検証に必要な生化学実験も既にスタートしている。また,ハイスループット化のための新規分子合成も完了し,基板表面での光分解速度を高めることに成功している。以上より,当初の計画通りに概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度着手した定量化とハイスループット化の研究をさらに進めつつ,さらに,新しい課題として,コラーゲン表面を基質とする光応答弾性基板の開発に着手する。また,各種臓器の弾性率に近似した基板を作製し,この基板上での細胞の動きの評価や生化学解析から弾性率の寄与を明らかにする。また,力学環境に応じた薬剤の効き目の違いも評価する。
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