研究課題/領域番号 |
15H03832
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
尾高 雅文 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (20224248)
|
研究分担者 |
野口 恵一 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (00251588)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 触媒反応機構 / 反応中間体 / 翻訳後修飾 / 時間分割結晶構造解析 / 中性子構造解析 |
研究実績の概要 |
ニトリルヒドラターゼ(NHase)は、システインスルフェン酸(Cys-SO-)とシステインスルフィン酸(Cys-SO2-)を配位子とする特異な非ヘム鉄または非コリンコバルト活性中心をもつ。そのため、アクリルアミド工業生産用触媒やシアン系廃液浄化への利用など産業に極めて重要な酵素であるが、触媒機構は明らかにされていない。これまでに、研究代表者らは、Rhodococcus erythropolis N771由来鉄型NHase (ReNHase)のβR56K変異体を用いた時間分割結晶構造解析を行い、Cys-SO-配位子の側鎖スルフェニル基が非ヘム鉄に配位した基質のニトリル炭素を求核攻撃し、環状中間体を形成することを明らかとした。しかし、得られた構造をもとにした理論計算によると、βR56K変異体では環状中間体以降の触媒反応が容易に進まないことが明らかにされた。すなわち、以降の触媒過程を解析するためには、他部位の変異体を用いた時間分割構造解析を行う必要が考えられた。そこで、理論計算から環状中間体以降の過程に関与すると予測されるβTyr37をフェニルアラニン、アラニン、ロイシンに置換した変異体を構築し、大腸菌による組換え体として発現・精製した。βY37F, βY37A, βY37Lの各変異体はいずれも野生型の30%程度の触媒活性を示した。βY37F変異体を結晶化して1.2Å分解能の結晶構造を決定したところ、変異部位以外に大きな立体構造変化はみられなかった。また、βTyr37の水酸基に相当する位置には水分子が存在し、野生型と類似の水素結合ネットワークを形成していた。これまでに、βTyr37近傍で水素結合ネットワークを形成するαSer113をAlaに置換した変位体でも同様な現象が観察されていることを考え合わせると、この水素結合ネットワークが触媒機構に関与する可能性が示唆された。中性子構造解析を行うために、多量の野生型酵素を発現・精製できるように、菌体の培養条件の最適化を改めて行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は、平成26年10月に秋田大学に着任し、平成27年度4月より実験スペースを確保して研究を開始した。平成27年度には研究協力者の交替やタンパク質精製装置、クロマトチャンバー等の故障による実験の停止を余儀なくされたため、当初の予定よりも実験の進捗状況に遅れを生じている。故障した装置は、平成27年度に研究費の前倒し申請を承認いただいたことで回避することができ、当初の予定よりも若干遅れが出ているが、進捗状況は回復してきている。
|
今後の研究の推進方策 |
βTyr37変異体を始めとする触媒機構に深く関わると予想される水素結合ネットワークに関係するアミノ酸残基の多重変異体を構築して時間分割構造解析を行うことにより、新たな反応中間体構造を決定する。得られた構造をもとに理論計算を実行し、触媒機構モデルを検討する。一方、触媒機構を明らかにするためには、やはり、野生型酵素を用いた酵素基質複合体の構造解析が不可欠である。しかし、現行の方法では時間分解能に限界があり、野生型を用いた測定は不可能である。これを解決する方法として、X線自由電子レーザー(XFEL)を利用した結晶構造解析が考えられる。現在、XFELを用いた実験を行うための微小結晶の準備や予備実験などを検討し始めている。また、野生型の水素結合ネットワークに関する詳細な情報を得るため、中性子構造解析も継続して進めていく予定である。
|