研究課題/領域番号 |
15H03840
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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研究分担者 |
川内 敬子 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 講師 (40434138)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体分子 / ヒストン / 核酸 / がん / 浸透圧調節分子 |
研究実績の概要 |
DNAとヒストンの複合体であるヌクレオソームは、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の最小単位であり、その構造や安定性はDNAとヒストンの化学修飾、及びヌクレオソーム近傍の化学環境によって制御されている。このことから本研究では、ヌクレオソームとエピジェネティック機構の化学的理解を目的とし、DNA、ヒストン、及び化学環境を決定する浸透圧調節分子の三元的な効果を定量することを目指している。研究計画のうち、2年目である2016年度には、次の二点について検討を進めた。 (1)ヒストン模倣分子が及ぼすDNAの構造への影響:ヒストンを化学模倣したカチオン性人工高分子(デキストラン側鎖修飾型ポリアリルアミン 以下、PAA)を合成した。DNAの配列を系統的に変化させ、PAAの効果を検討したところ、GC含有量が多くなるにつれ、PAAがB型の二重らせん構造をA型の二重らせん構造に遷移させることが明らかとなった。PAAはGCリッチな配列が形成するB型二重らせん構造の脱水和を促進し、A型二重らせん構造を誘起していることも示唆された。また、アニオン性高分子を添加することで、このB-A遷移を可逆的に制御できた。A型構造は遺伝子発現に重要であることから、この構造遷移が遺伝子発現制御に関与している可能性が示された。本成果は、英国王立化学会誌の表紙として取り上げられた。 (2)浸透圧調節分子存在下でのDNAの構造安定性:細胞内で特に高濃度に存在する浸透圧調節分子(TMAOや尿素)を用いて細胞内の分子クラウディング環境を再現し、DNAの二重らせん構造と四重らせん構造に及ぼす効果を検討した。その結果、TMAOと尿素はそれぞれ、DNA構造を安定化、不安定化することが示された。さらに、TMAOのようにトリメチルアミン基をもつ分子は、DNA二重らせん構造と特異的に相互作用することも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3か年の研究計画の2年目として、ヒストン模倣実験系の構築が達成され、さらに熱力学的な解析手法も確立された。また、浸透圧調節分子が及ぼす効果についても定量解析が進んだ。これらのことから、研究計画最終年度に向けて、十分な準備と成果が得られていると考えられ、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度においては、エピジェネティック修飾の効果を検討する必要がある。この点に関して、ヒストン模倣系の実験系が確立できたことから、PAAなどの人工高分子にアセチル化やトリメチル化官能基を導入し、DNAにメチル化したシトシンを導入する予定である。このようにして、ヒストン、DNA、浸透圧調節分子の三元的な効果を解明することが可能になると期待される。 このような定量解析に加えて、研究最終年度には、上で明らかになりつつある三元効果と遺伝子発現の関係性や細胞内での役割についても検討する必要がある。細胞での浸透圧調節分子の効果については、ヌクレオソーム(クロマチン)の抗体染色などを用いて興味深い成果が得られつつあることから、研究最終年度において、研究計画全体の成果をまとめることが可能であると考えられる。
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