負電荷をもつDNAと正電荷をもつヒストンのポリイオンコンプレックスであるヌクレオソームは、ヒストンとDNAの化学修飾、ヌクレオソーム近傍の化学環境に依存して、その構造や熱力学的安定性が変化する。本研究では、ヌクレオソームの構造安定性とその変化に伴うエピジェネティックな遺伝子発現制御機構の化学的理解を目的とし、DNA、ヒストン、化学環境を決定する浸透圧調節分子の三元的な効果を定量することを目的とした。具体的には、次の三点の検討を進めた。 (1)ヒストンを化学的に模倣した合成高分子とDNAのポリイオンコンプレックスにおけるDNAの構造と安定性の検討。 (2)ヒストンやDNAに見られるエピジェネティックな化学修飾(メチル化やアセチル化)を前述の人工高分子やDNA鎖に導入した際のDNAの構造安定性の評価。 (3)オズモライト依存的なDNAの構造安定性や、ヒストン模倣高分子の複合効果についての解明。 その結果、上記(1)に関しては、ヒストンを模倣したポリアリルアミン高分子(PAA)が、DNAの三重らせん構造を特異的に安定化することが見いだされた。またこの安定化機構が、三重らせん構造形成に伴う対イオン濃縮をPAAが緩和していることによるものであることが示唆された。(2)に関しては、ポリリシン(PLL)と、前述のPAAのアミノ基の部分に、エピジェネティック化学修飾である、アセチル化とトリメチル化を任意の割合で導入する方法を確立した。メチル化高分子はDNAに対する効果を減弱させるのに対し、アセチル化高分子はその効果を維持することが示された。(3)に関しては、上述の化学修飾高分子と、大乗的な浸透圧調節であるトリメチルアミンNオキシド、グリセロール、尿素の複合効果に関して定量的な知見を得ることできた。
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