研究課題/領域番号 |
15H03846
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
細矢 憲 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (00209248)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 汚染除去材料 / HPLC / 3D固相 / 表面修飾 / MPC / 細胞機能 / 血液評価 / スプレー法 |
研究実績の概要 |
成果1)各種イオン交換基を有する機能性モノマーを用いて,基材表面修飾を行い,その性質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて詳細に検討し,細胞膜機能との比較を行い,機能性モノマーの官能基と導入方法の最適化を行った。成果2)成果1で得られた知見を基に,構造がわずかに異なる超親水性物質に対する相互作用とその分離について検討を行い,分子認識に関する知見を得た。成果3)3D固相の最上層の構築方法として,様々な方法を検討し,下層の機能を損なわない画期的な表面修飾方法を開発した。 以下,さらに詳しく記載する。成果1および成果2)昨年度の成果により,PEG骨格を有するモノマーを用いる多孔性薄層の形成について,この多孔体薄層は最外層ではなく,3D固相の第二層,つまり中間層となる候補であることを確定し,本年度は最上層となる親水性機能性モノマーによる表面修飾により,構造がわずかに異なる超親水性物質の分子認識について,表面官能基の種類を制御することで,捕捉能の変化が可能であるとの成果を得た。成果3)第二層が決定され,最上層の候補を得たため,下層の機能を損なわない表面修飾法について詳細な検討を行い,従来の重合誘起の表面修飾法ではなく,スプレー法を併用する当該ポリマーの散布と乾燥による画期的な表面修飾方法の開発に成功した。これにより,最上層での夾雑物の排除と,ターゲットの捕捉が可能となり,下層においてターゲットの検出に定量的な影響を大幅に軽減できることを見いだした。 これにより,本成果報告・進捗欄に示す検討がスムーズに進行し,1)分子鋳型,2)中間層,3)最上層の各パーツが完成した。加えて,最下層の基材についても,新たな視点から検討を開始しており,これらの成果を発表した第27回クロマトグラフィー科学会議において,最優秀発表賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医薬品および生活関連物質(PPCPs)に対する保持特性に関しては,1)水媒体(あるいは水環境)から固相に捕捉し,2)夾雑物洗浄の際の有機溶媒(アセトニトリルあるいはメタノール)環境でも固相に保持していること,が求められている。成果概要で記載した多層構造固相に関して,クロマトグラフィー的手法を用いて,検討を行ったところ,水素結合,静電的相互作用環境に存在する親水性低分子化合物を,その環境から解放し,また,アセトニトリル環境でも親水性相互作用クロマトグラフィーに基づく保持が発現することを示唆するデータが得られた。これには前年度から検討を行ってきたポリエチレングリコール(PEG)鎖を有する両親媒性多孔質層が最適であった。特にPEG鎖は水環境でもある程度の疎水性と親水性を併せ持った化合物の保持に優れていることが明確となった。 本年度の研究内容は,1)多層固相調製に関する検討項目,2)親水性化合物の保持に関する項目,および3)最上層の検討と分子鋳型との共存である。前述のように,1)および2)については,構造がわずかに異なる超親水性化合物を用いる独自の手法を用いることで二年目としては予想以上の成果を得ることが出来た。定量的評価では85%である。 また,3)については,下層の機能(分子鋳型を含む)を損なわない新しい方法について成果を得ているため,本年度の研究の進捗としては,予定を充分に達成したと言える。定量的には85%。 マイナス面としては,分子鋳型との共存が挙げられるが,すでに医薬品に関する独自の分子鋳型作製方法を確立しており,また,本年度画期的な最上層の形成手法を得たことから,見通しは明るいと考えている。このため,(2)おおむね順調に進展している,とした。 収支面では,pHメータ改善が想定外であったが,概ね予定通り支出した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を構成する小目的は,1)医薬品および生活関連ケア製品(PPCPと略)を水相から捕捉する疑似細胞膜層を構築する。2)捕捉されたPPCPを充分に保持できる疑似親水性相互作用分離層を創出する。3)PPCPの特徴を認識し,夾雑物を排除する多次元メカニズム分子鋳型層を構築する。ことであり,これらの小目的の相互の達成により,現状では環境水から捕捉困難で有効な濃縮手法が無いPPCPを疑似細胞膜層により捕捉し,選択的認識・保持濃縮可能な多次元分子認識メカニズムの層状(3D)構築を目的としている。 二年間の研究により,これら個別の3つの目的に関して,個々に「達成」レベルの成果を得ている。すなわち,最上層として,イオン交換基をもつ親水性機能性モノマー,特に申請にも記載したMPCモノマーによる新たな表面修飾法の開発,二層目としてのPEGを骨格とする両親媒性層の確立と親水性条件下での性能の獲得,さらに最下層,つまり分子鋳型では,申請者らが開発した官能基館距離固定化法の確立である。 最終年度である平成29年度は,これら個別の成果を合一し,最終目的の達成を目指す。特に申請時とターゲットは変えず,抗うつ剤スルピリドを予定しているが,得られた成果の検討の中で,実環境ではないが,飲用水の中の微量親水性物質の除去という新たな課題得ており,みぢかな環境改善に向けて検討を加速させたい。これらの目的の相互達成によって,従来は困難であった親水性化合物の水環境からの選択的捕捉,定量が可能になるものと確信している。 予算としては,発表予定学会の1つが地元京都開催であることから,昨年度並みの30万円を計上し,残りを消耗品を中心とした備品費として計上させて頂いた。
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備考 |
学会発表において最優秀発表賞を受賞した件について,大学のHPに掲載した。
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