研究課題/領域番号 |
15H03848
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
花屋 実 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (50228516)
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研究分担者 |
藤沢 潤一 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20342842)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽電池 / 太陽光発電 / 高効率太陽光発電材料・素子 / 複合材料・物性 |
研究実績の概要 |
次世代の太陽電池として期待を集める色素増感太陽電池について、研究代表者が独自に開発したアルコキシシリル色素を増感色素として用いることで太陽光-電気エネルギー変換効率の向上を図るとともに、色素のπ電子系から二酸化チタンの伝導帯への直接電子遷移が可能な二酸化チタン界面錯体型増感色素の開発に向けて研究を実施した。 具体的には、有機系色素を用いたセルとしては世界最高となる12.5%の光電変換効率を得ることに成功しているアルコキシシリルカルバゾール色素ADEKA-1について、ADEKA-1に比べて短波長領域での吸光性に優れるアルコキシシリルクマリン色素SFD-5との共増感効果による光電変換特性の向上を検討した。その結果、SFD-5の吸収帯に対応する400~530 nmの波長領域で光電変換における量子収率(IPCE)の向上が観測され、光電変換効率は12.8%へと向上した。この結果を踏まえて、ADEKA-1との共増感の検討を広く研究が進められているカルボン酸色素へと展開した。そして、二酸化チタン電極にADEKA-1とトリフェニルアミン系カルボン酸色素LEG4とを吸着させたセルにおいて、光励起されたADEKA-1からLEG4への電子移動による協調的増感作用が発現することを見出した。この協調的増感作用によってセルのIPCE は理論限界に匹敵する90%に達し、14%を超える光電変換効率を実現することに成功した。 また、界面錯体型増感色素の開発に向けて、有機色素のπ電子系から二酸化チタンの伝導体への界面電荷移動遷移について、その発現機構ならびに遷移確率を支配する因子を密度汎関数理論に基づく電子状態計算により解析し、高効率な界面電荷移動遷移を可能とするためのアルコキシシリル色素の分子設計を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、色素増感太陽電池において、アルコキシシリル増感色素およびこれを用いたセルの高度化を進め、従来の光電変換効率の限界を打開し、色素増感太陽電池の実用化の指標である15%の光電変換効率を達成することを最終目標としている。このために本年度はアルコキシシリルカルバゾール色素ADEKA-1について、従来から広く研究がなされているカルボン酸増感色素との共増感の検討を進めた。その結果、ADEKA-1とトリフェニルアミン系カルボン酸色素LEG4とを用いたセルにおいては、光励起されたADEKA-1からLEG4への電子移動による協調的増感作用が発現することを見出し、100 mWcm-2の疑似太陽光照射下において14.3%の光電変換効率を達成することに成功した。この効率は、これまでに色素増感太陽電池において報告されている約13%の光電変換効率を大きく超えるものであり、また、50 mWcm-2の疑似太陽光照射下においてその値は14.7%まで上昇することから、本年度の研究は、目標の達成に向けて当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者のこれまでの研究により高い光電変換特性を示すことが確認されているアルコキシシリルカルバゾール系およびクマリン系色素について、二酸化チタン電極表面での色素の構造、電極への結合様式と電池の光電変換特性との相関の解明を進める。これにより、高い光電変換効率を得るためのアルコキシシリル増感色素の構造について検討を進めるとともに、二酸化チタン電極上への吸着法を確立する。さらに、カルボン酸色素との協調的増感作用の発現機構について、色素の分子構造の観点からの検討を進める。 また、1.2 Vを超える光電圧を得ることに成功しているアルコキシシリルクマリン系色素について、アルキル鎖を有するオリゴチオフェン部位の導入等、二酸化チタン電極から電解液の酸化還元対への逆電子移動反応を抑制するための分子設計ならびに合成を進め、色素増感太陽電池の高光電圧化による高効率化の検討を進める。同時に、アルコキシシリルアントラセン類を中心に、有機π電子系から二酸化チタンの伝導帯への界面電荷移動遷移を発現する界面錯体型増感色素の開発を進め、アルコキシシリル色素との共増感による光電変換効率の改善を図る。
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