研究課題/領域番号 |
15H03849
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿部 竜 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60356376)
|
研究分担者 |
小笠原 正道 北海道大学, 触媒科学研究所, 准教授 (70301231)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 可視光 / 水分解 / 水素製造 / 非酸化物系半導体 / 有機色素 / 二段階励起機構 / レドックス / ポリオキソメタレート |
研究実績の概要 |
本研究は、太陽光を用いたクリーン水素製造技術として期待される「半導体光触媒を用いた水分解」の飛躍的な高効率化を目指すものであり。適切な方法によって「安定化」した「非酸化物系可視光応答型半導体」を「二段階励起型水分解系」に導入し「太陽光スペクトルの効率的利用」および「水素・酸素の分離生成」を達成することを目的としている。初年度は、安定な可視黄応答型非酸化物系光触媒の開発を最優先課題とて検討を進め、以下の成果が得られた。 (1)酸窒化物系 波長680ナノメーターまで吸収可能なBaTaO2Nに各種遷移金属をドーピングして可視光酸素生成効率の大幅な向上を達成し、適切な助触媒担持により安定化にも成功した。 (2)硫化物系 長年にわたって不安定とされてきたCdSとフェロシアン化物レドックスを組み合わせると、その表面に保護被膜が形成されて安定な可視光水素生成が可能になることを見出し、その機構解明を行い、他の金属硫化物への適応が可能であることも実証した。 (3)ハロゲン化物系 ビスマス系酸ハロゲン化物であるBiOBrのBrの一部をIに置換した光触媒が、可視光照射下において酸素生成活性を示すことを見出し、これを適切な水素生成用光触媒と組み合わせて、二段階励起型の可視光水分解を実証した。また、シレン-アウリビリアス構造を有する一連の酸ハロゲン化物が、可視光照射下において極めて安定に水を酸化できることを新たに見出した。 (4)有機色素系 これまでに見出している「オリゴチオフェン部位を有するカルバゾール系色素」の構造最適化により、従来系に比べて3倍以上の高い水素生成活性が長時間安定に得られることを実証した。 (5)新規レドックス系 遷移金属で部分置換したポリオキソメタレートが二段階励起型水分解系において安定なレドックスとして機能することを初めて見出し、これを用いた可視光水分解の実証に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の最優先課題とした非酸化物系光触媒系の開発については、窒素系、硫黄系、ハロゲン系ともに、新たな可視光応答型光触媒を開発するとともに、その安定化に成功していることから、順調に進展していると言える。また、これらの機構解明も合わせて進めることにより、硫黄系などでは汎用性の高い安定化手法を新たに見出すに至っている。有機色素系を用いた可視光水素生成系においても、その色素構造を系統的に変えて特性を評価することによって、今後の色素設計の指針を提示するに至っている。 さらに、従来の二段階励起型水分解系では、ヨウ素系または鉄系のレドックスが主に用いられてきたが、多電子反応を伴う前者ではその反応促進のために貴金属系の助触媒担持が必須であり、また後者の鉄系レドックスは鉄イオンの沈殿を防ぐために強酸性の水溶液中で反応することが不可欠であった。このため、汎用性の高い新規レドックスの開発が望まれており、。今年度、遷移金属導入型ポリオキソメタレートが二段階励起型水分解系の安定なレドックスとして機能することを初めて実証するに至っており、今後の高効率系への応用が期待できる。以上のことより、大部分の検討項目は当初の予定通りに進捗していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
上記のように、平成27年度までは概ね計画通りに順調に進展しているため、平成28年度においても可視光応答型非酸化物系半導体の新規開発とその安定化は引き続き検討を進め、平成28年度末を目処に、光触媒材料の絞り込みを行う。これと並行して、新規レドックスの開発や、ナノ構造導入による逆反応抑制、およびヘテロ結合導入による電荷分離促進、などによるを可視光水分解反応の高効率化を進め、最終年度における「水素・酸素の分離生成」に適用する可視光応答型光触媒系の準備を始める。
|