研究課題/領域番号 |
15H03850
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
池田 茂 大阪大学, 太陽エネルギー化学研究センター, 准教授 (40312417)
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研究分担者 |
原田 隆史 大阪大学, 太陽エネルギー化学研究センター, 技術専門職員 (00379314)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 太陽電池 / バルク結晶 / 不定比性 / 銅アンチモン硫化物 |
研究実績の概要 |
銅(あるいは銀)、アンチモン、硫黄からなるCu(Ag)-Sb-S化合物が、薄膜太陽電池および水の光分解電極等の太陽エネルギー変換のための新材料となる可能性があることを、これまでの研究で見出している。しかし、これらの材料の基礎物性は十分に分かっておらず、さまざまな組成(Cu(Ag) / Sb / S含有比率)をもつバルク固体や薄膜も得られていない。本研究の第1の目的は、このようなCu(Ag)-Sb-S化合物の中でも、高い光起電力が期待されるワイドギャップ材料(1.6~1.8 eV)であるCuSbS2、Cu12Sb4S13、AgSbS2、Ag3SbS3化合物に着目して、それらの単相バルク固体と薄膜を精密合成し、構造と物性との関係を明らかにすることである。第2の目的は、得られる基礎的な知見に基づいて太陽エネルギー変換デバイスを作製し、高機能化を実現することである。 本年度は、Cu(Ag)-Sb-S化合物の一つであるCuSbS2に特化について、Cu-Sb-S三元系等温断面図を実験的に作成し、CuSbS2の不定比性を調査するとともに、その組成のズレによる電気物性等の違いを系統的に評価したCu,Sbの金属元素に関しては、どちらの元素も過剰側、不足側の両方について不定比性があった一方、硫黄に関しては過剰側には不定比性がほとんど見られないことが確かめられた。 得られた不定比性の範囲内においてバルク結晶を作製すると、期待どおり目的生成物は異相がないピュリティの高い試料が得られた。得られたバルク結晶の電気特性から、不定比性の範囲内において得られたバルク結晶はその組成によって異なる物性を示すことが示唆された。詳細な解析と合生実験から、この化合物での多数キャリアの起源がSbサイトにCuが入ったアンチサイト欠陥であること、これを制御するような組成比の試料を作製することで、物性面では現行の太陽電池光吸収層であるCu(In,Ga)SSe2に近い結晶が得られることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CuSbS2化合物のバルク結晶の合成と物性評価については、計画にほぼしたがって進行している言える。また、得られた結果は、この材料が薄膜太陽電池の光吸収層として有用である可能性を示しており、今後の研究計画を進める上でも重要な成果が得られたと考えられる。薄膜の作製については、化合物薄膜の作製のノウハウがあるスプレー熱分解を採用しているが、噴霧条件で安定な原料溶液が得られず、スプレーノズルの目詰まり等が高頻度で発生したため、平成27年度はこのような技術課題の追求は行わず、上記のバルク結晶の作製と物性評価に集中することで、原理原則の理解に努めた。
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今後の研究の推進方策 |
バルク結晶の評価については、前年度CuSbS2以外の新たな材料について合成と物性評価研究を継続する。薄膜については、バルクの評価が最も進展したCuSbS2について成膜を開始する。素子特製については、太陽電池および水分解電極としてのポテンシャルをの評価を実施する。この場合、現行のCu(In,Ga)SSe2太陽電池の素子構造であるヘテロ接合を利用するが、CuSbS2のバンドポテンシャルはCu(In,Ga)SSe2のそれとは異なると考えられるため、最適な組み合わせとなるn型半導体層材料も異なると予想される。バンドポテンシャルについてはこれまでに得た高品位CuSbS2バルク結晶を用いて評価を進め、それらの知見をもとにn型層材料の選択と合成を進める予定である。
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