光機能材料として期待されている銅(あるいは銀)、アンチモン、硫黄からなるCu(Ag)-Sb-S化合物の基礎物性は十分に分かっておらず、さまざまな組成(Cu(Ag) / Sb / S含有比率)をもつバルク固体や薄膜も得られていない。本研究の第1の目的は、このようなCu(Ag)-Sb-S化合物の中でも、高い光起電力が期待されるワイドギャップ材料(1.6~1.8 eV)であるCuSbS2、Cu12Sb4S13、AgSbS2、Ag3SbS3化合物に着目して、それらの単相バルク固体と薄膜を精密合成し、構造と物性との関係を明らかにすることである。第2の目的は、得られる基礎的な知見に基づいて太陽エネルギー変換デバイスを作製し、高機能化を実現することである。本年度は前年度まで実施してきたCuSbS2を中心に物性評価をさらに深化させるとともに、この材料の光機能性材料としての機能評価を行った。物性に関しては、光学特性(バンドギャップおよび電子エネルギー構造)については不定性は大きな影響を与えないこと、熱力学的にはCu過剰、S不足組成をとる傾向があることが明らかになった。前年度までの物性評価で良好な物性となると期待されたCu不足(Sは量論組成あるいは過剰側)組成を得ることがきわめて難しく、極力化学量論組成に近い組成を得ることが本材料では最適な組成の選択となるとの結論に至った。光機能として、粉末系の光触媒反応、すなわち、還元剤存在下での水素発生を評価した結果、高機能化を果たすことはできなかった。バルク機能を反映させるには本材料に特化した表面特製の制御が必要であることが示唆された。なお、他の材料については詳細な検討まで至らなかったが、AgSbS2、Ag3SbS3のAg系化合物はn型の半導体特性を示したとから、光機能デバイスとしては、n型に有利な構造を選択する必要があることが示唆された。
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