正二十面体ホウ素クラスターカルボランは、材料化学の分野から医療分野まで幅広く実用化されているが、有機光電子材料としての応用を指向した研究例はほとんど無かった。そのような中、報告者はカルボランの電子求引性と適度な嵩高さに着目し、世界に先駆けてカルボランを基盤とする発光性材料開発に取り組んできた。 本年度の研究では、o-カルボランにベンゼン環二枚からなるビアリール骨格を縮合させた化合物を合成した。加えて、チオフェンとベンゼン環が縮環した化合物およびビチオフェンが縮環した化合物を合成した。代表的な例としてビアリール縮環化合物を選択し、この化合物の反応性を検討した。求核剤としてテトラメチルアンモニウムフルオリドを反応させると、カルボラン骨格からホウ素原子が一つはずれたアニオン性のnido-カルボラン化合物が良好な収率で得られた。nido-カルボランは高効率で固体発光することを明らかにした。 また、多環芳香族化合物としてベンゾチオフェンに着目し、ベンゾチオフェンとo-カルボランを組合せた化合物の合成を試みた。すなわち、アルキンで結合したベンゾチオフェンとデカボランを反応させることにより、二つのベンゾチオフェンがo-カルボランにより縮環した化合物の合成に成功した。o-カルボラン骨格でベンゾチオフェン同士を固定することにより、平面性の高い拡張パイ共役系が構築され、ストークスシフトの小さい高輝度蛍光発光特性を発現した。
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